高校生の自己理解を促す題材の開発

DOI

抄録

【目的】家庭科が目標とする生活自立や人間関係育成の能力は、個の確立が基になっている。高校生期は個の確立がなされていく時期であるが、学絞教育ではこのことに配慮がされているとはいえず、また、諸外国と比べて生徒の自尊感情が低いという報告もある。本研究では、高校生が自己を理解するための活動を家庭一般の授業に取り入れ、学習過程での自己についての考え方の変化と、授業後の自尊感情の変化を検討することを目的とした。<br>【方法】家庭一般の中で、「自分をみつめよう」という題材を計画し、4時間の授業を行った。授業の前に4段階評定尺度のセルフエスティーム・スケールによる調査を行い、10項目の合計点を自尊感情得点とした。自尊感情得点の高低により、全体を高群、中群、低群に群別し、授業後の自尊感情得点を比較した。また、学習過程をみるために、授業で用いたワークシートの中の記述をカテゴリーに分け、群別に傾向を比較した。 題材の計画にあたって担当の家庭科教師に生徒の実態をヒアリングしながら修正した。授業は家庭科教師が行った。学習の流れとワークシート(W)の内容は次の通りである。<br>? 中高校生用エゴグラムチェックリストを記入し(事前に行った)、結果を読みとる。(Wl:結果の読みとりと感想) <br>? 自分の長所・短所を考え、短所について視点を転換して肯定的に考えてみる。(W2:考えと感想)<br>?グループでクラスメ}トの長所をあげる。(W3:感想)<br>? クラスメートがあげた長所を読む。(W4:感想) <br>? 自他からみた自分の長所を絵に表現する。(W4:感想)<br>? 今までの自分やこれからの自分について、自分に手紙を書く(W5)。  調査対象は群馬県前橋市内の公立高等学校1校の2年生4クラス 163名(男子87名、女子76名)、実施時期は2002年10~11月であった。 <br>【結果】<br>1.群別自尊感情得点の範囲は、低群13~23点(平均 18.9点)、中群24~33点(平均28.2点)、高群13~23点(平均36.5点)とした。<br>2.授業前後の自尊感情得点平均値をT検定した結果、低群と中群で有意差があり、授業後は高くなった。<br>3.学習の過程は次のような特徴がみられた。 <br>?エゴグラムの結果に対して、自分の気づかなかった側面について触れるなど自省的自己認識をしている者は約53%、その通りだなど簡単な受け止め方の表層的自己認識42%であった。わずかだが結果がショックだという生徒もいた。 <br>?短所を長所に見直した結果、自分を自己肯定的に捉えた者63%、否定的な者20%であった。<br>?友人の長所探しの結果、他者に感心をもった者44%で、その内容は、気づき・他者を見る目の拡大・他者とのかかわりなどがあげられた。(他の約66%は授業の感想をあげていた。) <br>?他人からみた自分を知っての感想は、自分がわかったとする白己理解的内容63%、さらに自分を向上させようなど自己変容的内容37%であった。<br>?これまでの学習のまとめである「自分への手紙」の内容は、自己向上84%、自己受容14%、その他2%であった。 <br>以上から、本授業により特に低群・中群の生徒は自分を肯定的に見つめ、自尊感情も高まった。一方、自己否定的な生徒に対して今後の授業でフォローが必要であり、一部に自己を扱うことへの抵抗感を感じる生徒がいることから本題材の改善も必要である。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205593913600
  • NII論文ID
    130006961302
  • DOI
    10.11549/jhee.46.0.44.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ