女子向き科目「家庭一般」の成立と展開

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The formation and development of the subject "General Home Economics"
  • 学習指導要領のカリキュラム構造における「生活」の位置づけ
  • Focusing on the treatments of the "life" in the Courses of Study

抄録

【目的】  <br> 学習指導要領は,教師に対する指針を示し,あるいは制約を与える存在として,わが国の学校教育において大きな役割を果たしてきた。教師のカリキュラム開発に関する研究のなかでは,学習指導要領を中心とした公的なカリキュラム(official curriculum)を教師が解釈したうえで計画を立案し,そして実行する(enacted curriculum)というカリキュラム開発の過程における思考や行動に関する知見が蓄積されてきている。また,家庭科教育における教師研究やカリキュラム研究においては,家庭科教師が学習指導要領の制約を受けながらも自身や生徒の「生活」をもとに主体的なカリキュラム開発を行っていることが指摘されている。  <br> そこで本研究では,家庭科教師のカリキュラム開発に深く関係してきた「生活」という概念が,学習指導要領においてどのように捉えられているのかに焦点をあて,過去の学習指導要領のカリキュラム構造の変遷をたどる。1989年の教育課程改訂以降,男女共修となった高等学校家庭科は,内容的にも形式的にも,1955年の設置以降30余年にわたり存続した女子向き科目「家庭一般」,およびその前身の科目「一般家庭」を基礎としている。したがってこれらの科目の学習指導要領におけるカリキュラム構造を検討し,現在の高等学校家庭科の目標および内容の淵源を明らかにすることを目的とする。<br><br> 【方法】  <br> 本研究の主たる資料は,「一般家庭」の学習指導要領(1949年)および「家庭一般」の学習指導要領(1956年,60年,70年,78年発行)と学習指導要領解説(1972年,79年発行)とする。さらに,学習指導要領改訂の意図を検討するため,文部省の家庭科担当官であった山本キク,仙波千代,金原ちゑ子らの論稿も用いる。  <br> 分析は以下のふたつの観点から行う。すなわち,1. カリキュラムの構成要素に着目した検討と,それに基づいた2. 目標原理,内容構成原理における「生活」の位置づけの検討である。まず,1. カリキュラムの構成要素に着目した検討については,それぞれの学習指導要領がカリキュラムの4要素(Schwab, 1973) である(1)教師,(2)学習者,(3)内容(目標原理,内容構成原理を含む),そして(4)環境をどのように捉えているのかを示す。そのうえで,2. 目標原理,内容構成原理における「生活」の位置づけの検討では,家庭科教育の目標や内容構成のキーワードとして用いられてきた「生活」という概念が,対象とする学習指導要領および解説でどのように定義され,また位置づけられてきたのかを明らかにする。<br><br> 【結果】  <br> 「家庭一般」の学習指導要領を概観すると,一貫して「家庭生活の改善」という概念が目標原理とされるとともに,「家庭の経営」が内容を統合する原理となっていることが明らかになった。  <br>1. カリキュラムの構成要素については,「一般家庭」および1956年改訂版までは学習者中心カリキュラムの考え方が部分的にみられたのに対し,女子の履修が「原則」とされた1960年版以降は,知識中心カリキュラムへと変化したことが明らかになった。一方,2. 目標原理,内容構成原理における「生活」の位置づけについては,「家庭一般」が,「家庭生活の改善」を目標とし,「家庭の経営」という概念を用いることで,「一般家庭」における領域分立という課題を克服し,領域を統合するという意図のもとに導入され,「主婦養成」の側面をはらみつつその後に継承されたと考えられる。  <br> 今後の課題としては,女子向き科目「家庭一般」のカリキュラム構造と男女共修化後の普通教科「家庭」のそれとの間にどのような連続ないし断絶がみられるのかを検討することが挙げられる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205594668928
  • NII論文ID
    130005287086
  • DOI
    10.11549/jhee.59.0_86
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ