植物色素による布の染色と得られた染色布の性能

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  • Natural dyeing using plants and the properties of the dyed fabrics
  • ―大学の公開講座での実践報告―
  • - Report of university extension -

抄録

【目的】<br>植物色素を用いた染色は,堅牢度,コスト,色の再現性,対応繊維の少なさなど合成染料による染色に劣る点が多いため,現在,工業的にはほとんど行われていないが,手工芸や伝統工芸として続いている。黒ブドウの一種であるスチューベンは青森県の特産品のひとつであり,生で食べられるほかジュース,ジャム,クッキー等の加工食品に利用されているが,染色など被服分野での利用は知られていない。そこで,スチューベン果皮を染色材料として,絹布,綿布および羊毛布の染色を行った。染色条件をいろいろ変えて,得られた染色布の色調との関係を考察するとともに,染色布の持つ種々の性能を調べた。染色材料に用いることでスチューベンの知名度が上がれば地域のイメージ向上につながり,また,染色には廃棄部分である果皮を用いることから環境教育にも生かせると言える。得られた実験結果を元に,毎年大学で開催している一般市民を対象にした公開講座の内容の改善を試みた。前年度の講座の様子を報告し,今後の講座の内容を検討する。<br><br>【方法】<br>試料布は,絹,綿および毛の平織物(JIS染色堅牢度試験用添付白布,JSA)を用いた。染色材料である冷凍スチューベン果皮と水を重量比1:1で混合し,80℃で20分間加熱して染色液を得た。布の染色はポリプロピレン製容器を用いて,染色液(10 cm3)中に試料布(5×5 cm2)を浸漬して行った。この時,時間を1分~24時間,温度を5~100℃,pHを1~9と変えた。無媒染染色のほか,Mg2+,Al3+,Ca2+,Ti4+,Fe3+およびCu2+を用いて,染色後の布を媒染液(10 cm3)中に25℃で20分間浸漬する後媒染染色を行った。媒染液濃度は5~200 mmol/dm3とした。布の色彩は分光式色彩計を用いて,L*,a*およびb*を測定し,ΔE*abを求めた。布のUVカット性は紫外可視分光光度計を用いて透過スペクトルを測定し,SPFおよびPA値を求めた。さらに依頼試験により布の抗菌性試験を行った。耐光堅牢度および耐窒素酸化物(NOx)堅牢度は,各々JIS L 0841およびJIS L 0855に基づいて調べ,洗濯堅牢度はJIS L 0844を元に色素に合わせて中性洗剤で調べた。さらに,染色前後の布の剛軟度,引張強度・引裂伸度,吸水速度および防しわ度についても常法により調べた。公開講座は平成27年4月に開催した。ここではスチューベンのジュース加工業者から入手した搾りカスを染色材料とし,綿のハンカチ(45×45 cm2)を染めた。<br><br>【結果】<br>いずれの繊維も強酸性条件でのみ濃色に染まったが,スチューベン果皮から抽出した染色液はpH 3.3~3.6で,pH調整することなく染色に適していた。無媒染染色において,濃色に染色するのに適する浸漬温度と時間は,絹が「80℃,20分」,綿が「25℃,20分」,毛が「80℃,60分」と繊維により異なった。布の性能を調べたところ,染色布は抗菌性とUVカット性を持つことがわかった。また,染色により布が少しかたくなり,引張強度・引裂伸度および防しわ度が少し低下したが,これらは一般に染色布に認められる性質であると言える。染色による吸水性の変化は,綿では低下したものの,絹ならびに毛では飛躍的に向上した。6種類の媒染剤を用いた媒染染色により様々な色彩の布が得られたので,公開講座で利用できる色見本カードを作成した。無媒染染色布の耐光堅牢度,洗濯堅牢度および耐NOx堅牢度は高くはなかったが,媒染剤を選べば,いずれの堅牢度も媒染染色布で向上することがわかった。以上の実験結果を踏まえ,昨年度の公開講座では,従来よりも媒染剤の種類を増やし,媒染液濃度を変えた。来る10月に開催する今年度の講座では,綿布に適する室温で染色すること,媒染剤の種類をさらに増やすこと,色見本カードを使うことを計画している。加えて,スチューベン染色布が抗菌性やUVカット性を持つことを受講者に伝え,一連の染色実験で得られた情報の発信に努める。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205594670720
  • NII論文ID
    130005287100
  • DOI
    10.11549/jhee.59.0_73
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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