家庭科における「親世代性」を育む授業の検討

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タイトル別名
  • Examination of the class to foster a "generation of parents" in home economics
  • - Focusing on child care practice in New Zealand -
  • -ニュージーランドの保育実践に着目して-

抄録

1.目的<br>   近年、わが国の子育て支援において「親性」という概念が注目されている。「親性」について伊藤(2006)は、「母性や父性を超えた概念であり、育ちゆく命である子どもを慈しみ育もうとする心、性別や年齢、能力、生みの親か否かに関わらず、すべての人が持ちうる心性」と定義している。また、谷向(2010)は、「親性」と同義の言葉として「親になる準備性」、「育児性」、そして、「養護性」等を提示し、「親性」は本能によってのみ規定されるものではなく、むしろ生育過程において育成されていく面が大きいと示している。さらに、「親性」を基に導き出された概念として、「親世代性」が見受けられる。「親世代性」について金田(2003)は、「親になってもならなくてもすべての大人に不可欠な資質」であり、その背景には養護性や育児性が据えられていることを示している。<br>   このように、今日わが国における「親性」に対する議論は、家庭に主眼を置きながら「親準備」的な観点に意義を見出すのではなく、地域資源を生かし、人と人との繋がりの中で子育てにおけるネットワーク形成を目的とした論が多数見受けられる。もちろん、ネットワークの形成というものは、偶発的に発生するものもあるが、そのほとんどは、意図的な働きかけを基に人々が共通認識を抱きながら成立している。つまり、わが国の家庭科教育において今日求められている要素の1つに、親になってもならなくてもすべての児童・生徒が将来的に親世代として地域、或いは、コミュニティ内の子育てに携わることのできる資質の土台作りというものが求められていると言えるだろう。では、わが国の家庭科において「親世代性」を育む授業とはいかなる視点から形成していくことが求められているのか。本発表では、ニュージーランドの保育施設で補助教員として勤務した発表者の経験を基に、家庭科において「親世代性」を育む際に求められる観点について検討することを目的とする。<br> <br>2.ニュージーランドの保育実践<br>   発表者はニュージーランドの保育施設で約半年間補助教員として勤務した。そこで、保育者が多く用いていた言葉は、「探求(Exploration)」と「学びの機会(Learning Opportunity)」という2つの言葉であった。この保育施設で重視されていたのは、子ども達に経験させ、探求心の生起を持ち、そこから新たな学びへ繋げていこうとする観点であった。例えば、保育者は、砂場で泥水のついたスコップを舐めたり、砂利を口に入れたりしている2歳児を見ながら重要な「学びの機会」になっていることを発表者に伝えた。おそらく、わが国の保育施設では止められるであろう子どもの行為が発表者の勤務した保育施設では許容されていたのである。勤務当初、このような光景に対して発表者はニュージーランドの子育てにおける大胆さとしてとらえていた。しかしながら、保育経験を重ねる中で、上述したニュージーランドの子育て観(保育観)が「ゆとり」を持ったもの、或いは、一定の振れ幅(柔軟性)を持ったものとして理解するようになると共に、わが国の保育においても示唆的な観点であると考えるようになった。<br> <br>3.考察<br>   ニュージーランドの保育経験を基に日本の保育を見た際、わが国の保育においては「危ない」、「汚い」、或いは、「みっともない」といった「安全第一主義」を背景に、知識偏重型の保育観が拡がっているような認識を抱いた。これらわが国で見受けられる保育観に対してニュージーランドの保育観は、子どもの「主体性」を大切にしながら、一定の柔軟性を持っていることが示された。このようなニュージーランドの保育に見られる「スロー保育」とも言える概念は、わが国の保育に対して示唆的な観点となり得ると共に、家庭科内での保育分野においても新たな「親世代性」を育む授業展開に繋がるものと考える。<br><br>引用文献<br>伊藤葉子. (2006). 中・高校生の親準備性の発達と保育体験学習. 風間書房.<br>金田利子(編). (2003). 育てられている時代に育てることを学ぶこと. 新読書社.<br>谷向みつえ. (2010). 子育て広場における臨床心理学実習の実践報告: 大学生の親性教育の試みについて. 総合福祉科学研究, 1, 243-248.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595014272
  • NII論文ID
    130005021599
  • DOI
    10.11549/jhee.56.0.45.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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