家庭科における授乳観・養育者観の検討

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タイトル別名
  • Views of human lactation and parents in home economics education
  • a comparison with maternal and child health
  • 母子保健領域との比較から

抄録

目的<BR>  子育ての困難さと親への支援が注目される今日,家庭科保育領域における養育者観の検討が重要さを増している。本研究は授乳という養育行動に焦点をあて,その位置づけられ方の変遷をたどることで家庭科における授乳観・養育者観を明らかにするものである。その際,母子保健領域における情報にみられる授乳観・養育者観との比較検討により考察をすすめる。 授乳は,母乳分泌という女性の身体的特性に関わり,授乳をめぐる言説が母性観の歴史研究の対象ともされてきた。授乳に焦点を当てることで男女共同参画時代の養育環境の構築と,養育に対する主体者意識の形成を考える上での視点が得られるものと考える。<BR> 方法<BR>  資料として_丸1_高等学校学習指導要領(戦後試案より2009年)及び指導要領解説,_丸2_高等学校家庭科教科書(1950年代から2009年使用までの変化を捉えられる実教出版社版「家庭一般」「家庭総合」及び「家庭基礎」),_丸3_母子健康手帳の改訂関係資料,を用いる。これらについて各栄養法とその利点,授乳者に関する記述の変遷を捉え分析・考察する。<BR> 結果・考察<BR>  1.家庭科における授乳の位置づけ-母乳の価値・利点と授乳者<BR> 1970(昭和45),1978(昭和53)学習指導要領解説に母乳の価値の強調が記述され,それ以後の解説には記載がない。一方,今回対象の教科書から,母乳を最良としながら,母乳の利点の記述内容が変化することが捉えられた。1950年代の教科書では,栄養面と子どもの健康が挙げられ,経済性や愛情の交流といった項目が加わる(1960年代)。1980年代からは「(母子の)スキンシップ」も記述されるなど,利点の記述が増えていく。授乳者に関しては,周囲の「母親への配慮」(1950年代),「母乳が育児の絶対条件」(1960年代半ば-1970年代半ばまで使用の教科書)などの変化があるが,いずれも母親を想定している。「冷凍母乳」(2009年現在使用)の場合も授乳者の記述はみられない。なお,「母性・父性」から「育児性」や「親性」へと養育の期待はジェンダーに敏感な方向に変化した表現となっているが,その際に女性に特有の機能を「妊娠・出産」としている場合と「妊娠・出産・授乳」としている場合がみられた。<BR> 2.母子保健領域における授乳の位置づけ-母乳推進と授乳者<BR>  1975(昭和50)年母乳推進運動,「健やか親子21」,専門家向けの「授乳・離乳の支援ガイド」策定(2007)など,母乳哺育が支援の主要課題の1つである。母子健康手帳では,1976(昭和51)年改訂で強調され,授乳については記録・情報欄ともに定着している。授乳についての父親や家族への情報提供や共通理解が大切であるとされ,母乳以外の選択についても触れられるが,授乳支援の主な対象は母親である。<BR> 3.家庭科における授乳観・養育者観<BR> 母子保健領域とともに,母親に対する養育期待と母乳推進運動を反映した授乳記述の変遷が捉えられた。男性が保育を学習し,育児参加が求められる時代であるが,授乳の情報は,母乳哺育推進を前提として母親中心の授乳者像を形成している。現在使用されている家庭科教科書では,男女の養育責任について述べ,親と保育者を位置づけている。しかし授乳行動については具体的な記述がほとんどなく乳児の食生活の項に母乳栄養の利点として,「(母子の)スキンシップ」があるなど,男性や保育者などの授乳行動を捉えにくいと考えられる。男女が授乳者と養育環境についての観点をもって学べるような配慮が必要と考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595247488
  • NII論文ID
    130006962268
  • DOI
    10.11549/jhee.52.0.72.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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