アメリカの家庭科における行動変容理論に基づいた食品衛生教育について

DOI
  • 柴 英里
    広島大学大学院教育学研究科(院生)

書誌事項

タイトル別名
  • Theory-based food safety education in Family and Consumer Science classrooms in the U.S.A.

抄録

[目的・方法] <BR> 食中毒とは,「飲食物そのものおよび器具・容器包装を介して経口的に体内に侵入した有毒・有害な微生物や化学物質などによって起こる健康障害」の総称である。日本での食中毒の患者数は,2001年以降減少傾向にあったが,2006年は年間で39,026名もの人々が食中毒を発病しており,依然として食中毒が頻発している現状がうかがえる。家庭での食中毒は全体の1割前後を占めているに過ぎないが,統計には表れていない発生状況は未知数であり,膨大なものであることが予想される。家庭での食中毒は,その大半が家庭で食品を取り扱う者などの心構えや所作によって未然に防ぐことが可能である。そのため,食品衛生に関する正しい知識,態度,技術を習得し,各家庭で食中毒予防行動が習慣化することが食中毒予防において非常に重要である。ゆえに学校教育,とりわけ家庭科の中で食品衛生教育を行うことが重要であり,その実施の際には児童生徒に知識を習得させるだけにとどまらず,よい方向へと行動が変容するよう促す手立てが必要である。日米を問わず,児童生徒を対象とした食育において,対象者の行動に焦点を当てることや,適切な理論に基づいた教授方略を導入することの重要性が指摘されている。しかしながら,具体的にはどのようなプログラムを開発し,指導方法を工夫するのかということは難しく大きな課題となっている。学習者の行動変容を狙いとした食品衛生教育用教材がアメリカで開発されており,これは日本の家庭科教育に大きな示唆を与えるものと考えられる。<BR> そこで,本研究では,アメリカにおける行動変容理論に基づいた肉類の不十分な加熱による食中毒予防行動に資するカリキュラム教材「Now You’re Cooking: Using a Food Thermometer!(さあ,調理用温度計を使って料理しよう)」を紹介し,家庭科における行動変容理論の有用性と可能性を考察することを目的として,文献調査を行った。<BR>[結果] <BR> (1)「Now You’re Cooking: Using a Food Thermometer!」は,肉類の不十分な加熱に起因する食中毒を予防するために,調理用温度計を用いて肉類の内部温度が十分に上がっているかどうかを確認しながら調理を行うという行動を習得させるために開発されたカリキュラム教材である。<BR> (2)この教材では,トランスセオレティカル・モデルおよびヘルス・ビリーフ・モデルの概念を取り入れた食品衛生教育を行っている。<BR> (3)カリキュラム開発者らによって作製された教材は,ビデオや,パワーポイントを使ったスライド,生徒用の穴埋め式ノート,宿題プリント,教師用参考資料と多岐にわたっており,それら一式が教師に与えられている。<BR> (4)レッスン1から4は,それぞれ50分授業を想定して学習活動の時間配分が考えられており,レッスンごとに,学習範囲と教授方略が明確に示されている。<BR> (5)生徒の行動変容を促すための工夫として,実際に調理用温度計を用いる実習活動が盛り込まれている(例えば,調理用温度計を用いて加熱したハンバーグの内部温度を確認するなど)。<BR> 以上のようなカリキュラム教材を通して,生徒の食中毒に関する知識や,食中毒予防行動をとることへの自己効力感が増大するだけでなく,行動変容を促すことができることは実証されている。これを踏まえ,日本の事情に合わせて,家庭科教育の内容として検討し,積極的に取り入れてみる価値はあると考える。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595335552
  • NII論文ID
    130006962368
  • DOI
    10.11549/jhee.52.0.42.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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