高等学校における「消費者の権利と責任」に関する授業実践

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書誌事項

タイトル別名
  • Teaching practice on consumer rights and responsibilities in high school

抄録

【目的】<br>   消費者保護基本法は、1968年に消費者の保護を通して消費者の利益の擁護及び増進を確保することを目的として制定された。しかしその後の急速な経済成長やIT化、国際化の進展等による社会の変化に伴って、これまで保護される存在であった消費者の位置づけは自立した主体へと転換し、2004年に消費者基本法へと改正された。消費者一人一人が豊かな生活を送るためには、すべての人が早い段階から経済行為の主体としての基礎的な消費者の知識を身に付け、責任をもって意思決定を行うことが必要となり、「消費者基本計画」(平成22年度~平成26年度)の中でも消費者教育の充実が位置づけられている。また、2012年に施行された消費者教育の推進に関する法律においても、国民の消費生活の安定及び向上のためには、消費者教育を総合的かつ一体的に推進することが求められており、消費生活に関する知識を修得するだけでなく、その得た知識を行動に結び付ける実践的な能力を育むことが必要であるとされている。自立した主体として能動的に行動できる消費者の育成をめざす必要があり、消費者教育の果たすべき役割はますます大きくなってきている。<br>   本研究では、社会の変化や要請に伴い、学校教育における消費者教育のより一層の充実をめざして、実践的・体験的な活動を取り入れた消費者教育の授業案を作成して授業実践を行い、その効果を検証することを目的とした。<br>【方法】<br>    平成26年11月~12月の期間に、県立A高等学校第1学年普通科6クラス「家庭基礎」受講者240名を対象として、食生活領域「食生活の安全と衛生」において、「消費者の権利と責任」の内容を取り入れた授業を各クラス2時間ずつ実施した。授業は、まず飲み物のラベルを用いて食品表示の必要性や記載内容について理解させ、その後に消費者の立場からわかりやすいパッケージデザインを班活動で実際に考えさせた。班での意見交換を通して、消費者の権利と責任についての理解を深め、日常生活において情報を活用する姿勢を身に付けることをねらいとした。<br>   授業実践の前後にアンケートを実施し、食品の選択基準や消費者の権利と責任についての知識理解度、消費者としての意識の変化を比較して授業の効果を検証した。<br> 【結果】<br>    「消費者の権利と責任」に関する意識についての10項目の質問に対して、「そう思う」、「ややそう思う」、「あまり思わない」、「思わない」のいずれかで回答を求め、それぞれ4・3・2・1の点数を与えて平均点を出したところ、すべての項目で授業前と比べて授業後の平均点が高かった。最も点数が高かったのは、「選択する権利」についての意識であり、最も低かったのは、「安全を求める権利」であった。また、授業の前後で最も平均点の差が開き、意識の向上が見られたのは、「意見を反映させる権利」についてであった。<br>   デザインの考案は、各クラス内で4~5人ずつの班を8班作って行い、6クラスで48の作品が提出された。デザインを考案する際に、「消費者の8つの権利と5つの責任」(国際消費者機構CI提唱)の中から、どの内容について着目したかを記述する欄を設けた。消費者の権利に関しては多いものから順に、安全への権利22班、情報を与えられる権利19班、選択をする権利9班であり、消費者の責任に関しては、環境への配慮責任17班、社会的弱者への配慮責任8班、批判的意識を持つ責任4班であった。自由記述からは、ラベルデザインを通して企業側は消費者に様々な情報を与えていることに気付き、食品購入と関連させた自分の消費行動として具体的に考えることができた様子が見られた。今後は、食品購入時だけではなく生活全般の中で、自分は消費者であると意識して行動する必要があることを理解させるような授業をすることが課題である。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595379712
  • NII論文ID
    130005485139
  • DOI
    10.11549/jhee.58.0_77
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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