家事およびケア労働における日米の教科書比較

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  • An Comparative Study on Japanese and United States Textbook in terms of Household and Care Work Outsourcing

抄録

<br><br>少子高齢化社会の現代において、仕事と家事労働・ケアの二重負担が社会的に大きな問題となっている。家庭科教育の教科書では、現代社会における家事労働の中心的な意義について、「個人の生活的自立」および家事の「分担・協力」(佐藤<br>2012: 3)があるとされている。つまり、学生が個々で家事や子育てのスキルを学ぶことで、将来的には自立した個々人が家庭内で協働してゆくことを目指しているといえよう。<br> 確かに、このような「生きる力」(文部科学省 2010)の習得は、家庭科教育における重要事項であり、今後も実際的なスキル習得に向けた指導は必要であろう。例えば、ひとり親の父たちを対象としたインタビュー調査では、家事・子育てスキルが彼らの生活を支える大きな柱となっており、その中でも複数のインフォーマントから家庭科教育の重要性に関する語りを得ている(岩下<br>2014)。その一方で、家事・子育てスキルの習得や効率化だけでは乗り越えられない大きな時間制約の壁について言及があり(岩下ibid;岩下2013)、その一つの解決策として家事・子育ての社会化があがっている。このように、家庭科において家事・子育てスキルを学ぶことは非常に重要であるが、仕事との両立が所与のものとなりつつある現代では、家事やケアの社会化に関する知識を得ることも「生きる力」を身につけることと同義であると考えられる。そこで、本研究では、日本の家庭科教育において、家事およびケアの社会化がどのように記載されているのかを調査した。また、内容を比較検討するために、家事・子育てのアウトソーシングが進んでいるとされているアメリカの教科書も分析対象とした。<br> 分析にあたっては、高等学校の教科書を対象としている。日本の教科書は「家庭科総合」とし、東京の都立高等学校で最も多く使用されている教科書を用いた。アメリカの高等学校教科書については、各州で認定教科書は異なるが、今回はワシントン州で認定されているテキスト “Lifespan<br>Development” (Kato 2014)を分析対象とした。<br> その結果、家事の社会化についての言及はどちらの教科書についてもほとんど無かった。その一方で、子育てを含むケア分野については、子育てと介護の両方についてそれぞれの教科書に記述があった。 まず、子育てについては、日本の教科書では「保育環境」という項目で、集団保育の種類をあげており、子育て支援の箇所ではファミリー・サポート制度について解説が行われていた。アメリカの教科書では、子育ての社会化について、「子育ての選択肢」 “Child<br>care option”があることを述べ、さらにそれぞれの選択肢間の比較を表形式で提示している。次に介護については、日本の教科書は介護保険と介護サービスという高齢者ケアの社会化におけるシステムが解説されており、さらにケーススタディで具体的な介護保険の利用内容が紹介されている。また、ケアを提供する家族について、「かんばらない介護生活5原則」をあげ、高齢者ケアの社会化が必須のものとされていることを示している。一方でアメリカの教科書では、まず前提として家族によるケアという概念がほとんど見出せない。そして、高齢者ケアに関する記述は高齢者のデイケアや地域による支援および訪問医療の記述的な記載に留まっている。<br> 上記の分析結果から、日本の教科書は高齢者ケアに関する記述が詳細であるが、子どものケアについては情報量がやや少ないといえるであろう。アメリカの場合はこの逆で、子どもについて具体的な厚い記述がなされており、高齢者ケアについてはあまり多くの情報は提供されていない。このことから、子どものケアの社会化については、授業における発展的な議論が必要とされていると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595384576
  • NII論文ID
    130005485173
  • DOI
    10.11549/jhee.58.0_91
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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