小学校家庭科における生活実践力の向上

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タイトル別名
  • A study for helping pupils improve their practical living skills through home economics in elementary schools
  • -家庭科,生活科での授業実践を通して-

抄録

【目 的】<br><br>  家庭科は,児童が家族とともに心豊かな生活を創造しようとする<br><br>力を育てる教科である。家庭で課題を見つけたり,学んだことを実<br><br>践したりすることが必要不可欠であるが,小学5・6年生の家庭で<br><br>の家事時間はわずか4~6分である(社会生活基本調査,2011)。ま<br><br>た,児童の好きな学習内容,興味関心のある分野にも偏りがあるこ<br><br>と,小学校においては学級担任が家庭科授業を受け持つことが多く,<br><br>教師自身の興味のある分野にも大きな差があることが明らかになっ<br><br>ている(正岡ら,2010;2012)。<br><br>  そこで本研究では,はじめに小学生が家庭科の学習内容を実践し,<br><br>生活実践力を身に付けていく過程で影響を与える要因を明らかにす<br><br>る。次に,その要因をもとに,生活実践力を高めるための授業や家<br><br>庭との連携方法を計画・実践し,その有効性を検討することを目的<br><br>とした。本報告では,調査から明らかとなった家庭科の実態や生活<br><br>実践力に影響を与える要因,及び生活実践力を高める授業実践につ<br><br>いて述べる。<br><br>【方 法】<br><br>(1)調 査 : 平成26年7月から8月に,秋田県内の18小学校の小<br><br>学6年生とその保護者,依頼校の家庭科担当教員,大学生,短期大<br><br>学生を対象に質問紙調査を行った。主な調査項目は,基本属性の他<br><br>に,小学生は家庭科学習,家庭生活状況,放課後生活状況,保護者<br><br>は家庭科学習の捉え,子の生活状況,教育施策認知度,教員は学習<br><br>内容理解,家庭科室状況,教材整備,指導の工夫についてである。<br><br>(2)実  践 : 平成27年4月から8月にかけて,秋田県湯沢市立K<br><br>小学校で,第5学年(家庭科「はじめてみようソーイング」)と第1<br><br>学年(生活科「みんなを笑顔に大作戦」)の授業実践を行った。<br><br>【結果および考察】<br><br>   児童の調査結果から,家庭での実践状況に影響を与えていた要因<br><br>は,性別,平日・休日家庭学習時間,家庭科が好きか,楽しいか,<br><br>役立っているか,将来役立つか(p<.001),家庭での仕事分担有無,<br><br>平日の家族団欒時間,学校栄養職員の授業有無(p<.01)などである。<br><br>また,実践合計点と関係のあった要因について重回帰分析を行った<br><br>結果,家庭科が楽しいかどうか,家庭での仕事分担があるかどうか<br><br>が実践状況に大きな影響を与えていることが分かった。<br><br>  保護者の調査結果から,子どもの実践状況に影響を与えていた要<br><br>因は,子どもの性別,子どもの家庭での仕事分担有無,家庭科学習<br><br>は役立っているか(p<.001)であった。自立のための技能を身に付け<br><br>させたいという意識はあるが,実現できていない実態が見られた。<br><br>   また,小学校教員は中学校の学習内容を十分理解していないこと<br><br>から,系統性を明らかにする必要がある。被服製作での個別指導や<br><br>調理実習の準備,片付けの時間確保が課題として多く挙げられた。<br><br>   質問紙調査から,生活実践力を高める学習は,楽しく,生活に役<br><br>立つことが実感できること,家庭で自分の仕事をもち,それを継続<br><br>できることが重要であることが明らかとなった。<br><br>   そこで,家庭科では,児童が苦手意識をもちやすい被服製作にお<br><br>いて,ゲストティーチャーを招き,技能を確実に身に付けることで,<br><br>自分一人の力でできるという自信をもたせる授業を実践した。生活<br><br>科では,家族の一員としての意識を高め,保護者の協力を得ながら,<br><br>家庭での仕事に取り組む授業を実践した。その結果,5年生では個<br><br>別指導が充実したことで技能が確実に身に付き,もっと上手になり<br><br>たい,また製作したいという意欲的な姿勢が見られた。1年生では<br><br>夏休みにお仕事を継続したことで家族のよさや大変さ,自分のがん<br><br>ばりに気付き,これからも続けたい,またやってみたいという前向<br><br>きな姿勢が見られた。授業実践から,生活実践力を高めるためには,<br><br>保護者や地域の方と連携し,分かる,できる授業を行うこと,また<br><br>生活科からの実践の連続性が重要であることが示唆された。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595775744
  • NII論文ID
    130005485002
  • DOI
    10.11549/jhee.58.0_101
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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