サテライト校における家庭科教育の現状と今後の支援

書誌事項

タイトル別名
  • Future support issues and presents situation of home economics education in the satellite system high school
  • -福島県相双地区の調査を踏まえて-
  • Based on the research of Fukushima prefecture, Soma and Futaba district

説明

目的: 福島県浜通り地方の相双地区は、東日本大震災によって甚大な被害を受け、原子力発電所の事故により避難指示や警戒区域の指定が行われ、県内外への避難を余儀なくされた。そこで福島県教育委員会は、この地区の県立高校に在籍していた生徒に学習の機会を確保するために、元の高校に在籍したまま、避難先最寄りの協力校の施設で学習する方法(サテライト方式)で授業を開設し 、現在も8校に設置されている。<br>  家庭科教育は、サテライト校の高校生に、具体的な生活体験から今後の生き方を考えさせ、中・長期的な将来展望を捉えさせることに大きな役割を果たすことができ、学校全体として取り組む重要な課題の一つである「キャリア教育」の課題解決にも役立つのではないかと考える。本研究は、相双地区のサテライト校に勤務する家庭科教諭にヒアリング調査を実施し、震災後から今までのサテライト校における家庭科教育の実態把握を行い、課題を明らかにすることにより、今後求められている支援や家庭科教育のあり方を提言することを目的とする。<br>方法:1.調査対象・時期・方法 <br> 福島県相双地区のサテライト方式校3校と協力校(仮設校舎が敷地内にある)1校の家庭科教諭4名を対象に、2014年3月に2校、2015年3月に3校訪問し、聞き取り調査を行った。<br>2.調査内容<br> 内容は、1)仮設校舎の設備、2)高校生の抱える課題と家庭科の授業の現状と工夫等についてである。<br>結果: 1).仮設校舎の設備<br>  県立A高校(サテライト校)では、プレハブ仮設校舎に家庭科室がなく、県立B高校(協力校)の調理室を借用していた。普段の授業は、水道、ガス設備がない教室で実施されているので、電気器具しか使用できず、体験型授業を行うことの大変さが指摘された。<br>  県立C、D、E高校(いずれもサテライト校)は、F大学内の既存校舎とプレハブ仮設(トイレやカウンセリングルーム)を組み合わせて3校で使用していた。大学施設を転用した校舎は、プレハブ仮設と比べて、広さ、遮音などが配慮されていて、3校共同で使用する大教室や保健室もあった。水道が設置された教室もあり、簡易なつくりのプレハブ校舎に比べて良好な教育環境といえた。<br>2).高校生の抱える課題と家庭科授業の現状と工夫<br>  県立A高校は、2・3年で実施していた家庭総合を1・2年に移したが、新入生は被災して日が浅く、仮設住宅や寄宿舎から通学している生徒もいるため、個人のプライバシー問題に立ち入らないように配慮して授業内容を慎重に選択しており、扱いにくい領域があることが判明した。また、実習に使用する器材等の予算確保に課題が見られた。<br>  県立C、D、E高校にも家庭科室はなく、近隣の県立G高校の調理室や被服室を借りて実習を実施しており、マイクロバスで移動して授業を行っていた。それぞれの学校の時間割を調整して実習室の稼動を行っており、先生方の努力の様子が伝わってきた。普段の授業では、直火の使えない教室で体験型授業を行うことの工夫について教示いただいた。教室でできる簡易調理実習を取り入れた「食」の授業の展開は、仮設住宅で快適に暮らす知恵を盛り込んでおり、活動写真の様子から、生徒が主体的に取り組んでいることが伺えた。実習に使用する器材等は各方面からの支援物資によりほぼ充足されており、必要なものが教科ごとに仕分けられ、棚に整理整頓されていた。<br>考察と今後の課題: <br> 家庭科教諭は、生徒の置かれている状況が様々なので、教科書の内容どおりに教えることに難しさを感じていることが判明した。特に防災や人生設計については、個人の被災状況に配慮し、授業の中で生徒にかける言葉を選びながら慎重に取り組んでいることがわかった。被災者を対象とした支援制度(給付金、奨学金など)の活用があり、震災当初に比べ、生徒の生活や進路に希望の光がみられた一方で、今後の課題として、「職業観の形成」や「モチベーションの低下」が挙げられたので、家庭科の授業をとおして、生徒の一生を見据えたキャリア発達を支援することに取り組みたいと考える。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595783424
  • NII論文ID
    130005485083
  • DOI
    10.11549/jhee.58.0_32
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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