外国につながりのある小学校児童の現状と家庭科の課題

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タイトル別名
  • Current Situation of Students with non-Japanese Cultural Background and Challenges of Japanese Home Economics

抄録

目的<br> 日本では、近年、急激に増加している外国につながりのある児童生徒への指導のあり方に、大きな関心が寄せられている。特に、多様な国出身の上記の児童生徒たちに対しては、日本語の指導のほかに、生活文化に関わるサポートが必要になってきている。そこで、日本家庭科教育学会の課題研究として、家庭科という教科がどのような教育支援ができるかを探る研究に取り組むこととした。ここでは、本課題研究の報告1として、小学校に焦点を絞り、現状や事例を紹介し、家庭科の教育支援の観点を提示する。<br>方法<br> 本研究では、文献・ホームページなどの資料収集と、小学校の外国につながる児童を指導している教員へ<br> のインタビュー、授業観察、外国につながる児童へのインタビューに取り組んでいる。本報告では、まず、外<br> 国につながる児童の多い都道府県として、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・愛知県と、米軍基地などが<br> ある沖縄県の実態を示し、これらの児童に対する行政のサポート体制の実態を示す。そして、インタビューや観察を実施したなかから、学校独自の取組みとして、知立市の取り出し指導と、渋谷区の国際理解集会の事例を紹介する。その上で、家庭科で、どのような取り組みができるのかに関する観点を示す。<br> 結果と考察<br>①日本語を母国語としない児童生徒数の実態<br>2014年10月末現在、外国人労働者数は約79万人となり、過去最高となっている。外国人労働者数の増加に伴い、その家族として日本に住む日本語を母国語としない児童生徒数も増加している。日本語指導が必要な外国人児童生徒数を都道府県別にみると、上位5都道府県は、愛知県(5,878人)、神奈川県(2,863人)、静岡県(2,488人)、東京都(1,980人)、大阪府(1,966人)の順になっている。埼玉県は1,188人で第7位、千葉県は950人で第10位、沖縄県は57人と少ないが特殊な事情を抱える。<br>②行政のサポート体制<br>行政のサポート体制として、文部科学省では総合ホームページ(CLARINET)において、ガイドブックなどが掲載されている。各都道府県・市町村でも、教育委員会や国際交流協会等などが連携して、日本語指導の支援をしている一方、生活支援・指導については各学校・各学級担任に任せられているのが現状であった。<br>③愛知県の取り出し指導<br>愛知県A小学校は、外国につながる児童が58%と過半数にのぼる。そのため、国語は独自の指導形態別システムをとっている。外国につながる児童が増加し、「とりだし」では対応しきれなくなった背景がある。家庭科では、日本語が分かる児童でも、学習内容と自分の生活との結びつきが薄いと、授業への集中力がもたないため、毎回、研究授業のように教材開発に力を入れていた。<br>④渋谷区の国際理解集会 <br>東京都渋谷区立B小学校では、他国の文化・言葉を知り、異文化理解を深め、各々の愛国心を育てることを目的に国際理解集会を年2回行っている。大学の研究者とのつながりを生かし、教材の貸与や備品準備等の協力を得ていることが大きく、2014年は教員による各国民族衣装の披露と絵本教材を通しての活動を行った。<br>⑤指導の観点 <br>神奈川県横浜市C小学校では,家庭科において,日本での生活に適応していくために日本の生活習慣を理解させつつ,母国の生活習慣を否定しない指導を実践していた。成績評価では,日本語が十分話せない・書けないという点に配慮し,授業中の良いところをほめ,学習意欲を継続させる工夫をしていた。<br>   以上の➀~⑤から、家庭科においては,母国での生活習慣を否定するのではなく,日本での生活の適応のために日本の生活習慣を理解させる指導や,外国につながりのある児童が抱えている諸問題を一つの個性とみなし丁寧な指導・対応を行うことで,児童に日常生活で活用できる力を身に付けさせることができると考える。また,児童が家庭科で新しく学んだことを家庭で実践することを通して,児童だけでなくその家族も日本での生活をより深く理解していけるだろう。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595799936
  • NII論文ID
    130005485022
  • DOI
    10.11549/jhee.58.0_26
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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