スウェーデン人大学生調査からみるスロイド教育の意義

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タイトル別名
  • An investigation on how significant the Sloyd education is for Swedish university students

抄録

研究目的<br> 現在の日本では、ものづくり教育に対して十分な理解がなされていない状況がある。近年の学力の向上に対する要求の高まりに伴って、家庭科においても時間のかかる被服製作は敬遠されるなど、学校教育では十分に取り組まれていない状況にある。しかし、時間をかけてものを生み出す作業こそが子どもたちの真の学ぶ力を引きだし、問題解決能力を培うことに繋がるのではないかと考える。実際にスウェーデンでは小学校から中学校まで木材、金属、テキスタイルについての制作(製作)を、スロイドという必修科目で行っており、主体的、創造的活動を中心として、問題解決能力の育成を目指しているという。<br> 以上の問題意識から、本研究ではスウェーデン人大学生に対して調査を行い、大学生が小中学校でのスロイド学習を振り返って現在どう考えるのかを明らかにすることを目的とする。これらの結果よりスロイド教育の意義を考察することが可能となり、日本の家庭科教育においても被服製作をはじめとした教育活動の意義を検討する際に示唆を得ることが出来るのではないかと考えた。<br><br>調査方法<br> スウェーデンのリンショーピン大学の学生40人(19歳~27歳、男性23名女性16名不明1名)を対象に質問紙調査を実施した。質問紙は大きく3つの内容(A~C)で構成した。Aはスロイドに対する意識を問う3つの設問としすべて5件法(5:Very much … 3:Neither … 1:Not at all)で回答を求めた。Bはスロイドの授業で作った作品に関して記述で回答を求めた。Cは過去に学習したスロイドの授業を振り返り、その印象やそこで得たスキルに関して記述で回答を求めた。<br><br>結果<br> Aの3つの設問では回答の平均値を求めたところ、それぞれ「スロイドの学習は生活に有用だったか?」3.4、「スロイドの授業は楽しかった?」4.3、「スロイドは必修科目として適当であるか?」4.0という結果となった。このことより、スウェーデン人大学生はスロイド学習を比較的楽しいものであると捉えているということが分かった。<br> Bの「あなた、もしくは誰かがスロイドで作ったものを使用しているか?」という問いに対して、全体の80%にあたる32人が使用していると回答した。<br> Cの「スロイドの印象を一言で言うと何ですか?」という問いに対しては、『fun』という単語を用いて楽しさを記述した回答を34人から得た。このうち『fun』のみの記述は10人、『fun』の理由を創造性や他教科との違いを示して記述した肯定的な回答は19人、一方で『楽しかったが多くを学んだとは言えない。』『小学校の時は楽しかったが中学校になったらつまらなかった。』など楽しいばかりではないという回答が5人であった。<br> 「スロイドの授業で得たスキルは何ですか?」という問いに対しては、無回答が3人、何も身についていないと回答した人が2人に対し、残りの35人は何かしらのスキルを得たと回答していた。35人が記述した身についたスキルをすべて数え上げたところ73であった。このうち、木工スロイドのスキルは33、テキスタイルスロイドのスキルは37、金工スロイドのスキルは3であった。具体的には木工スロイドでは『のこ引き』『くぎ打ち』『家の修理』、テキスタイルスロイドでは『縫い物』『編物』『ミシンの使い方』などが回答され、スウェーデン人大学生は、道具を使うスキルをスロイドの授業で身につけたと捉えていることが分かった。<br> 本調査においてスウェーデン人大学生は自分がスロイドの授業で作ったものをよく覚えており、楽しい授業として記憶しているだけでなく創造性も養う学びであると捉えていた。さらに、スロイドで身につけたスキルを生活で活用出来る有用なものと考えていることが明らかになった。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205595843328
  • NII論文ID
    130005485178
  • DOI
    10.11549/jhee.58.0_41
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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