家庭科における住まいの管理に関する指導内容の考察

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タイトル別名
  • Consideration of Teaching Content Related to Housing Management in Home Economics

抄録

【目的】<br /> 平成18年に国民の豊かな住生活の実現を目指した住生活基本法が制定された。この成立により,我が国の住宅政策はこれまでの「住宅の量」を確保することから,「住宅の質」を向上することへと転換した。住宅は時間の経過とともに性能が劣化するため,手入れや補修を適切に行うことが必要であり,維持管理を行うことで住宅の質と価値を保つことができる。また,安全性の面からも住宅の維持管理を行うことは必要である。阪神・淡路大震災により倒壊した住宅は,直接的な建物の倒壊原因となったかは不明ではあるものの,シロアリの被害や腐朽菌の繁殖による被害が多かったという報告もある。日常生活の中で住宅を点検して,些細なことでもすぐに発見して補修することが,長く安全に住むことにつながることは明らかである。住まいを管理する能力を身に付けることは,安全に快適に日々の生活を送るために必要である。<br /> 住生活に関する能力を身に付ける場としては学校教育が効果的であり,家庭科では住居領域として独立した領域で小学校・中学校・高等学校と継続して学ぶことができる。しかし,家庭科の授業時間数は減少しており,中でも住居領域は扱いが低調であるという現状がある。そこで,家庭科の限られた時間の中で,効果的な住教育が実施されるための授業開発をすることを目的とし,住まいの管理を授業で扱う際の指導のポイントや小・中・高等学校の学びの系統性について,家庭科の教科書の記述内容から整理することにした。住まいの管理には,点検と修理,汚れを除く清掃等の衛生管理,生活財(モノ)の整理と収納,そして維持に要する費用まで含む場合がある。本研究では,家庭科で扱う範囲の住まいの管理として,維持管理するための点検や整備に関する内容ととらえ,その視点で書かれている教科書の部分を分析対象とした。<br />【方法】<br /> 平成28年度に小・中・高等学校で使用されている家庭科の教科書を分析対象とした。小学校2社2冊,中学校3社3冊,高等学校「家庭基礎」6社10冊,「家庭総合」6社6冊の合計21冊である。現行の学習指導要領では,住まいの管理に関する内容は,主として高等学校「家庭総合」で扱っている。そのため,最初に高等学校の教科書で住まいの管理の意義をどのような視点で書かれているかを整理した。次に,住まいの管理をする上で,現代の気密性の高い住宅で日常的に問題となりやすい「結露」とそれに関連する「通風・換気」に関する記載箇所をすべての教科書から抜き出し分析した。<br />【結果】<br /> 高等学校の教科書は,住まいの管理を行う目的について,「住まいを長く使う」,「快適に気持ちよく使う」,「安全に使う」の3点が主に書かれていた。管理に必要なこととしては,「清掃(掃除)」,「通風・換気」があり,経済的な備えの必要性について触れている教科書もあった。中学校と小学校は,「住まいの管理」として明記されている教科書はなかった。<br /> 「結露」について,高等学校は「家庭基礎」9冊,「家庭総合」6冊,中学校はすべてに記載が見られた。結露が引き起こす問題点として,中学校はかび・ダニの発生と健康障害があげられていたが,高等学校はさびや建材の腐食についても触れられていた。対策の仕方について,高等学校はすべての教科書に具体的に記載があるが,中学校は1冊に換気の必要性が書かれていただけであった。中学校の残り2冊は,空気汚染の対策としての換気の重要性を記載していた。小学校の住まいの管理に関わる内容は,通風・換気と清掃であり,2冊とも夏は涼しく過ごすために風通しよくすること,冬の暖房使用時は安全のために必ず換気をすることが書かれていた。「通風・換気」は,小・中・高等学校すべてで扱われているが,その目的や意義についての扱い方は,学校段階により違いが見られた。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205596854784
  • NII論文ID
    130005966595
  • DOI
    10.11549/jhee.60.0_71
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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