小学校家庭科における「ミシン縫いによる製作」授業の検討

目的子どもたちの生活経験が不足している現状に呼応して，家庭科の授業において子どもがつまずく場面が多く見られる。特にミシン縫いの学習において多くの「つまずき」がみられる。ミシン縫いの学習における先行研究によると，反復練習や視聴覚教材などを用いることによって技能向上に効果がみられる。しかし，植村ら(1992)は、中学校で小学校段階でのミシン指導に「問題がある」「少し問題がある」という指摘が90%にも達すると報告している。このことからも、小学校段階でのミシン縫い技能の定着が求められている。一方、生田（1987）は「わざ」習得の認知プロセスを示し、「わざ」習得における究極目標は「形」の模倣を超えた「型」の習得であると述べている。このプロセスに着目し、学習者が自分のミシン縫い技能の「形」を省察できる機会を経ることで、「形」だけでない、より深い理解の伴ったミシン縫い技能が定着するのではないかと考えられる。そこで本研究では，「わざ」習得の認知プロセスに着目した小学校家庭科の「ミシン縫いによる製作」授業を開発し，子ども間の相互作用およびふり返り活動を取り入れることがミシン縫い技能の定着に与える効果を検証することを目的とする。方法授業対象はH大学附属S小学校第5学年74名である。単元「わくわくミシン（12時間）」を授業開発した。第1次「ミシン縫いと手ぬいの特徴を考えよう！(1時間)」は、本単元の導入であり，第2次「ミシンの使い方説明書を作ろう！（6時間）」では，ミシンの基本的な技能を学習し，気づきやポイントを各時間で「ミシンの使い方説明書」を用いてふり返らせた。単元7時間目にはプレテストを行い，その結果をもとに第3次「ナップザックを作ろう！（6時間）」において得意な児童と苦手な児童を組み合わせ，積極的に助言をし合うことを強調し，「ミシンの使い方説明書」に気づきを記述させた。第4次「力試しをしてみよう！（1時間）」でポストテストを行った。結果１．生田(1987)の「わざ」習得の認知プロセスに着目し、「ミシン縫い」技能習得に関しても「上糸，下糸の準備」や「縫うこと」などの技能の「形」を授業の中でそれぞれの技能を体験的に学び，繰り返し模倣していく（自分1）」また，「学習者同士のかかわりの中で自らのミシン縫いにおける技能を批判，吟味，反省し，客観的活動を行う（自分2）」さらには，「ミシン縫いの技能」の「形」が「被服内容」「日常生活」と段階的に生活文化の意味関連を築いていく構造（自分3）」という認知プロセスが存在することが考えられ，「わざ」習得の認知プロセスの適用が可能であると考えられた。２．小学校6年生を対象とした「ミシン縫い技能」調査結果から、助言し合う活動やインタビューによるふり返りの中で、児童の客観的活動（自分2）が促進された場面がみられた一方で，苦手な者同士のペアであれば，相互作用は起りにくく，認知プロセスが成立しにくいことが示唆された。この結果を踏まえて、「ミシン縫いの技能」習得の認知プロセスを提案した。３．上記を踏まえて、単元「わくわくミシン（12時間）」を授業開発し、実践し、分析した結果、次の2点の成果が得られた。一つ目は、「ミシンの使い方説明書」に記述させながら，技能を省察させることは客観的活動（自分2）を促し，「ミシン縫い技能」の習得に効果が得られた。二つ目は、「ミシン縫いによる製作」授業において，学習者同士の「相互作用」を促すことは技能の習得を促進し，特にアドバイスをすることができる児童に関しては，「ミシンの使い方説明書」を用いた省察もされやすく客観的活動（自分2）が多くみられた。４．苦手な児童と得意な児童を組み合わせることは，苦手な児童の技能向上に効果が期待できる一方で，「教えられる」「依存する」という立場が固定されてしまうことがある。相互作用においてはアドバイスをされるだけでなく「し合う」環境を設けることなどが今後の課題としてあげられた。