都市環境におけるねずみの生態学的研究

書誌事項

タイトル別名
  • Ecological study of commensal rodents in the urban environment

説明

家鼠の種類構成のうえで,70年代は大きな変革の時代であった.それまでは都市化につれてドブネズミが優勢化したが,70年代以降は都心でクマネズミが復活した.【都市化の第1段階】 ドブネズミの優勢化した時代を都市化の第1段階と呼ぶ.ドブネズミの割合が増えるが,家鼠全体の生息数は減る傾向を示し,都市はドブネズミにより,農村はクマネズミによって占められた. 1)城ヶ島の事例: 60年に三浦半島との間に橋が架けられて急激に都市化した.65年から89年にかけて調べたところ,クマネズミの横行状態(捕獲総数89の85%がクマネズミ)から,ドブネズミの割合が増加しつつ,家鼠数の激減する経緯が観察された. 2)厚木市の事例: 70年代半ばに家鼠の分布を調べた結果,都市はドブネズミが優占したが,農村はクマネズミが69~100%の割合で捕れて,クマネズミの生息に適していることを示した.農村にはクマネズミの食性に合う種実類が豊富であり,都市にはドブネズミの食性に合う動物タンパクが豊富である.家鼠の食性の違いが生態分布の違いに現れた.【都市化の第2段階と札幌市街におけるクマネズミの消滅】 都心では70年代に大型ビルが急増した結果クマネズミが増えた.これを都市化の第2段階と呼ぶ.大型ビル内に一般的な,食料販売・飲食施設はネズミに食物を供給する.しかし,札幌では80年代にクマネズミが消滅した.札幌の街区は1 haごとに50 m以上の広い道路で区切られており,これが,街区間におけるクマネズミの分散や遺伝子交流を阻み個体群を弱体化させた.札幌以外の都市では,狭い道路で街区が成り立つために分断化が不完全であった. 70年代に発展したPCO業界はクマリン系殺鼠剤を盛んに使った.PCO は札幌ではクマネズミを撲滅させたが,他の都市では薬剤抵抗性のクマネズミを生んだ.クマネズミの横行には,優れた登攀力やPCOへの対抗力(強い警戒心や殺鼠剤抵抗性など)が関与した.【都市化の第3段階】 東京都心の住宅街では90年代半ばからクマネズミが横行した.これを都市化の第3段階と呼ぶ.品川区内で調査した結果,過去2年以内にクマネズミの侵入を経験した住宅は23.3%で,いずれも商業業務地域に近く,平均52 m,最高271 m離れていた.したがってクマネズミは商業業務地域から分散したものと推測された.【文献】矢部辰男.1997.都市におけるドブネズミとクマネズミの種類構成の変動.衛生動物, 48:285 - 294;矢部辰男.1998.ネズミに襲われる都市.205pp.中央公論社,東京;矢部辰男.2004.家鼠の採餌行動と加害機構.衛生動物.55:259 - 268.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205622200320
  • NII論文ID
    130006982311
  • DOI
    10.11536/jsmez.57.0.3.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ