車椅子キャスターにおける片輪乗り越えの有効性
抄録
【はじめに】<BR> 車椅子使用者にとって、20mmの段差でさえ乗り越えるには困難な場合がある。そこで今回、車椅子で段差を乗り越える際、キャスターを片輪ずつ乗り越え(以下、片輪乗り越え)る方が、キャスターを両輪で乗り越え(以下、両輪乗り越え)る場合に比べ、段差乗り越え駆動力が軽減すると仮説を立て、本研究に取り組んだ。<BR> 【対象】<BR> 学生27名(男性12名、女性15名、平均年齢21.9±1.3歳)、デイケアやデイサービス、老人保健施設の利用者61名(男性26名、女性35名、平均年齢77.4±11.8歳)であり、同意は得ている。<BR> 【実験と結果】<BR> 実験は1)重心位置、2)段差乗り越えに必要な駆動力(kg)、3)被験者の段差乗り越え能力(mm)を測定した。2)と3)は片輪乗り越え群と両輪乗り越え群間でそれぞれ比較した。片輪乗り越えでの段差は、2)は左側のキャスターに、3)では健側または利き手側のキャスターに設置した。<BR> 1)実験器具を作製し、学生が車椅子乗車時の重心位置を測定した。キャスター中心から26.1cm、後輪中心から16.9cmの地点に位置した。<BR> 2)実験1)で求めた車椅子の重心位置に60kgの砂嚢を載せ、体重60kgの方が姿勢保持している実験環境を設定した。学生が車椅子の対面に位置し、キャスターが10mmの段差を乗り越えるまで、作成した実験器具で車椅子を引くよう指示した。段差乗り越えに必要な駆動力は、片輪乗り越え群で左2.4±0.5kg・右1.6±0.3kgの合計4.0±0.6kgが要求され、両輪乗り越え群の左3.4±0.3 kg・右3.3±0.4kgの合計6.7±0.6kgに比べ40.3%軽減した(P<0.05)。左右比は片輪乗り越え群3:2、両輪乗り越え群1:1だった。<BR> 3)施設利用者に車椅子に乗り、アルミ板で作成した2mm-25mmの段差を乗り越えるよう指示した。実験器具の計測限界値である25mmの段差を容易に乗り越えた、被験者18名分のデータは除外した。段差乗り越え能力は片輪乗り越え群16.7±4.2mmで、両輪乗り越え群の11.9±5.2mmに比べ40.2%増加した(P<0.05)。<BR> 【考察】<BR> 本研究より、車椅子のキャスターで片輪ずつ段差を乗り越える方が、駆動力は軽減することが分かった。しかし、片輪乗り越えは3:2の比率でハンドリムを操作しなければ推進方向に進まず、不必要な回旋が起こるのではないかと疑問が生ずる。施設利用者は高齢で、運動性失語や認知症疑いの方も含まれていたが、全員が段差を乗り越え、推進方向へ進むことができた。日常生活場面で段差を乗り越える際、健側または利き手側のキャスターを先に段差に当て、段差に対し斜めから乗り越えることで同程度の効果があると考える。
収録刊行物
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- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 2009 (0), 237-237, 2009
九州理学療法士・作業療法士合同学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205624141440
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- NII論文ID
- 130006984424
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- ISSN
- 24238899
- 09152032
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可