在宅ALS患者の代替コミュニケーション手段の確保が困難であった一事例

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  • 「気分はいい」‥。ホント?

抄録

【はじめに】<br>筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)は、進行性のため医療的処置が順次必要になり、その都度で患者・家族の意思確認を行っていく。そのため、「コミュニケーション手段の確保」の重要性が指摘されている。A氏は、病状進行が早い在宅生活を送るALS患者であり、徐々に家族や医療・介護スタッフが患者の思い(意思確認)を確実に判断することが困難となった。今回、コミュニケーション手段の確保が出来なかった要因を考察する。<br>【事例紹介】<br>A氏。77歳男性。H16年11月ALSと診断。H17年2月から訪問リハヒ゛リテーション開始(1回/週)。開始当初は、ALS重症度分類4。BI 80点。基本動作自立。独歩で屋内移動可能。MMT上下肢4~5レヘ゛ル。ROMは、体幹・頸部に軽度制限。コミュニケーションは、発語困難なため、筆談やシ゛ェスチャー。職歴は小学校校長。趣味は、ワーフ゜ロで作成した文章をスクラッフ゜。性格は几帳面。家族構成は、妻74歳との二人暮らし。介護は、妻と近くに住む娘2人及び県外の娘で行っていた。<br>【経過】<br>ALSの各病期における、BI、コミュニケーション状況、症例の言動、フ゜ロク゛ラム内容を以下に記す。1.初期(H17.2から5月):BI 80から15点。筆談で日常会話可能。趣味は5月まで行えていた。4月以降、尿意の訴えが増え、呼び鈴や蛍光灯の紐を頻繁に引き、妻を呼んでいた。フ゜ロク゛ラムは、ROM・筋力維持、住宅改修・ADL介助法指導など。歩行訓練には、積極的な姿勢が見られた。2.進行期(H17.6から9月):BI 15から0点。筆談は、8月まで可能であり、いつも「気分はいい」と記載。その後は、右手OKサイン・瞬きによる「Y/N」の意思確認となる。胃瘻造設の話には、腕を組む、電気の紐を引き、話を聞く様子はない。A氏が「のどを通らない、手術する、(病院)行く」とメモを書き、胃瘻造設のため入院となる。痰の吸引開始。フ゜ロク゛ラムは、ROM・筋力維持・拘縮予防・リラクセ゛ーション、書字訓練・トーキンク゛エイト゛、ADL介助法指導、新聞読み聞かせなど。トーキンク゛エイト゛は、手で払いのけ拒否。3.終末期(H17.10から12月):BI 0点。アイコンタクトは可能。瞬きでの「Y/N」は曖昧。家族の呼びかけにも反応鈍い。四肢関節拘縮著明だが、頭頸部回旋が若干可能。肺炎で入院し、気管切開試行。フ゜ロク゛ラムは、拘縮予防・リラクセ゛ーション・ホ゜シ゛ショニンク゛、ADL介助法指導など。<br>【考察】<br>A氏が自ら訴えたことは、生理的欲求・趣味・最終的な決断を迫られた時のあり、これは、身体障害の進行に精神適応の過程が追いつかず、不安・拒否が前面に出ていた為だと考える。また、いつもの「気分はいい」は、自己の尊厳を守ろうという表れだったのではないかと考える。このような、精神状況の下で、進行期においてコミュニケーション手段確保への直接的な働きかけは、A氏を追い込んでいたとも考えられ、様々なアクティヒ゛ティが行えている初期時からコミュニケーションについて、症例と向き合うことが大切だと考える。<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205624430976
  • NII論文ID
    130006984666
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2006.0.81.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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