腓骨神経麻痺を呈し観血的治療に至った症例

書誌事項

タイトル別名
  • ―補助診断による早期手術の重要性―

この論文をさがす

説明

【はじめに】<br>腓骨神経は腓骨頭の近位にあり、外傷や安静時の不良肢位での圧迫により末梢神経損傷を起こしやすい。また、表面からは損傷の程度が分かりにくい上に神経の回復は1日1mmといわれており、手術に踏み切るか経過観察をするかの判断がつきにくいのが現状である。一般的には約6ヶ月の経過観察の後、回復の徴候がみられない場合に観血的治療が適応になる。しかし、長期の脱神経状態(denervation)により術後回復が困難であるケースも多い。今回、神経伝導速度計測による補助診断にて発症早期の手術適応となり神経回復がみられた症例を担当したのでここに報告する。<br>【症例紹介】 <br> 50代男性、土木建設業、H17年10月初旬事故により圧迫を受け右腓骨神経麻痺受傷。右足関節背屈不能となる。MMT足関節背屈0、外反0、総腓骨神経領域にしびれあり。下垂足、鶏歩を呈していた。受傷当時腓骨神経の運動神経伝導速度(Motor nerve Conduction Velocity;MCV)測定にて健側に比べ遅延あり神経遮断(neurapraxia)以上の障害認めた。<br>【PTプログラム及び経過】<br>廃用性筋萎縮予防の為、低周波を用い腓骨神経と前脛骨筋に通電した。筋の変性反応生じ通電による筋収縮得られなかったが継続し経過観察した。歩行時シューホーン装着にて鶏歩は改善した。<br>1ヵ月後、前脛骨筋の筋収縮は依然認められず筋萎縮が進行していた。腓骨神経MCV測定では患側は誘発不能、表面筋電での筋放電もなかった。重度の軸索切断(axonotmesis)か神経断裂(neurotmesis)の可能性強く神経の回復は今後も望めないとして腓骨神経剥離術、後脛骨筋腱移行術が施行された。術後は低周波による通電と足関節ROMエクササイズを実施した。<br>術後約1ヵ月半、外反運動出現し(外反MMT2)、腓骨筋の筋収縮も認める。テーピングにて鶏歩改善し装具なしで生活され仕事復帰も果たす。術後約3ヶ月、前脛骨筋収縮認め(背屈MMT2)、術後約5ヶ月には背屈MMT5となり最終的に母趾伸展のみ障害が残る結果となった。<br>【考察・まとめ】<br>受傷時のMCVは、損傷部位以外の神経興奮性は保たれている為損傷の重症度が分かりにくい。損傷からの時間が経過するにつれワーラー変性が進行し、重度損傷である場合は神経の再生が起こることなく神経細胞は破壊していく。このことより、損傷の原因除去が早ければ早いほど回復の可能性が広がると言える。今回、受傷後比較的早期に重度神経損傷が確認され手術に至り約5ヶ月かかって回復できた。PTとしての関わりの中で、病態を把握しPTプログラムや予後予測をする上でも、また後遺症を最小限にくいとめる上でも期間を追った電気生理学的検査での補助診断が不可欠であることを実感した。<br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205624480640
  • NII論文ID
    130006984715
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2006.0.9.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ