デイケア利用者に対する作業療法の目標について

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  • カナダ作業遂行測定を使用した事例を通して

抄録

1.はじめに:通所リハにおいて、作業遂行レベルでの目標がつかめず漫然と機能訓練を継続している利用者は少なくない。今回、通所リハ開始から5年が経過した事例に対して、カナダ作業遂行測定(以下、COPM)を利用して作業遂行レベルでの目標を発掘した結果、事例に変化が見られたので、その経過を報告する。<BR> 2.事例:60代後半の男性。妻、長男と3人暮らし。元公務員で海外勤務も多かった。約10年前に両側片麻痺を発症。両側下肢に中等度、両上肢に軽度の運動麻痺、構音障害を有する。認知機能は問題なし。アDLは、トイレ動作、整容、食事は自立。屋内歩行は歩行器使用にて自立、屋外歩行は見守りレベル。5年前から当通所リハを利用。現在は要介護2の認定を受け、当通所リハを週2回、他通所リハを週1回利用。歩行能力と上肢機能の向上が本人の目標だった。<BR> 3.経過と結果:特に面接場面を設定することなく、運動療法、屋内歩行訓練を実施しながらCOPMを30分程度で実施した。その後、事例が作業遂行レベルでの悩みを意識するようになった。すなわち、様々な失敗体験から作業に対する不安があること、散歩はしているが介助してくれる家族に気遣うこと、外食しているが手すりの有無など店を選ぶ必要があること、本当は海外旅行に挑戦したいが諦めていたこと、などを話し始めた。対話と評価を通して、事例の作業遂行が困難な原因として、運動麻痺や体力低下もあるが、事例は特に作業遂行に対する不安が強く、作業遂行の減少から自信が持てないという悪循環にあることが考えられた。最終的に、1年後に本人と家族が安心できる状況で海外に車椅子で旅行することを目標に、通所リハでは外食の機会を増やすこと、屋外歩行の距離を延長することを本人と話し合って決めた。現在、通常の運動療法に加えて、屋外歩行訓練と手すりのない喫茶店への外出訓練を実施している。また、担当者会議で家族や介護支援専門員へこれらの目標や訓練内容を伝達し、ケアプランの目標を再設定するとともに、家族や介護スタッフの介護技術を向上させることに協業を求めた。6カ月後、屋外歩行の距離は延長し、喫茶店内の歩行では、段差、椅子への移乗など安定してできるようになり、転倒のリスクが減少。事例も、自らの目標に対して前向きになり、訓練時に自ら色々と提案するようになった。海外旅行に関しては少し希望が出てきたと話すようになった。<BR> 4.考察:まだ経過途中ではあるが、発症や通所リハ利用から数年が経過した維持期の事例においても、作業遂行レベルの目標を再設定することで、事例自身が作業遂行に意欲的になり、活動レベルを向上させることができた。特に今回はCOPMがきっかけとなった。通所リハでは利用者と個別に関わる時間の制限があるが、今回の経験から、訓練中の対話を工夫することで作業遂行レベルでの目標を設定できることが可能となった。また、本人にとって意味のある作業を引き出すことも作業療法士の役割だと再確認できた。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205624682112
  • NII論文ID
    130006984901
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2008.0.173.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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