温泉療法が慢性疾患患者の血清中インターロイキン-1β(IL-1β)へ及ぼす影響
抄録
【はじめに】<BR>本研究は,温泉療法の改善効果を解明することを目的としている。前々は温泉浴が慢性心不全患者のナチュラルキラー活性(NK活性)機能に与える影響を検討し、前回は温泉浴が慢性心不全の血清中tumor necrosis factor-α(TNF-α)へ及ぼす影響を調べた。今回は血清中インターロイキン-1β(IL-1β)について検討した。IL-1βは,感染や炎症などで生じる各種免疫応答に密接に関与しているサイトカインである。<BR> 【方法】<BR>対象:NYHAIII以下の慢性心不全患者(虚血性心臓病5名,心筋症1名)の6名(男性4名,女性2名)。平均年齢:79.6± 6.4歳(平均±SD)。研究の目的と内容に関しては十分にインフォームドコンセントを行った。温泉療法の環境:単純泉を選択した。室内温度を28℃とし、温泉温度は40度、入浴時間は10分間 、入浴頻度は毎日で週5回以上とした。入浴期間は2週間、入浴方法としては、半身浴または胸骨の深さまですることとした。温泉療法における安全性の確保と身体機能の把握のため初回時と最終回の前後60分間医師によるバイタルサインのチェツク、及び毎回の前後にバイタルサインのチェツクを行った。さらに適宜、医師による診察、チェツクを行い温泉療法の安全性に関しては慎重に臨んだ。採血は温泉療法前および2週後に血清中のIL-1βを測定した。IL-1β の測定にはenzyme-linked immunoassay (EIA)キット(Biosource社)を用いた。データ処理:Decision of Statistical Analysis。有意差検定:Paired-Student’s-t-test を使用した。<BR> 【結果】<BR>血清中IL-1βの量は温泉療法開始前と比較して2週間後では低下傾向を示した(開始前: 0.879±0.210 pg/ml、2週間後: 0.77±0.154 pg/ml)。しかし両者で統計学的な有意差は認められなかった(P =0.1697)。<BR> 【考察】<BR>温泉療法開始前と2週間後の各種血清中サイトカインの量とその動態変化を検討した。IL-1βにおいて温泉療法開始前と2週間後を比較して有意な差は認められなかった。しかし全体的に低下傾向を示した。IL-1βは主に単球・マクロファージ系細胞から分泌される多様な生物活性を有するサイトカインである。さらに、免疫応答の維持・調節には不可欠な情報伝達物質である。特に,興味深いIL-1βの作用機序は下垂体前葉に作用して体温を上昇させることである。つまり、 IL-1βは体温を上昇させる働きがあることから、本研究では温泉療法後体温が上昇するため、IL-1βの産生が抑制されたのではないかと考えられる。さらに興味深い知見は、温泉療法前にIL-1βのレベルが高い被験者は温泉療法終了後IL-1βの産生は抑制され、温泉療法前にIL-1βのレベルが低い者はその産生が増強されていることである。いずれも一定の基準レベルに近づくような反応が見られた。この所見は松野らの報告とも一致している。
収録刊行物
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- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 2008 (0), 159-159, 2008
九州理学療法士・作業療法士合同学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205625171968
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- NII論文ID
- 130006985359
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- ISSN
- 24238899
- 09152032
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可