学内成績と職業的アイデンティティの関連

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抄録

【はじめに】<br> 近年、「職業的アイデンティティ」という言葉を見聞きする。一般的には「自己同一性」と訳されるが、「社会との関わりの中で身につける自分の役割、自身の価値について確信を得ること」と解釈することもできる。先行研究では、学生の情意面を教員が把握し指導する必要性を示唆した報告や、学内成績に影響を及ぼす因子として意識、意欲面などの関連を報告しているものなどが散見される。これらからも、少子高齢化や養成校の増加など社会状況に伴い、学生の質や意識、意欲面などが刻々と変化することは普遍的と捉えるべきある。そこで今回、「職業的アイデンティティ」と学内成績との関係を明らかにすること、学生指導の対応策の一助を得ることを目的に調査検討したのでここに報告する。<br>【対象および方法】<br> 平成20年度理学療法学科入学者の1年次筆記試験成績平均点において、平均点+2SD以上を成績上位群、平均点±2SDを成績標準群、平均点-2SD以下を成績下位群の3群に分類し、成績上位群(10名)、成績下位群(12名)の22名(男性13名、女性9名)の学生(平均年齢は20.5歳±5.3歳、年齢範囲18歳~37歳)を対象とした。なお、1年次中途退学などによる筆記試験未受験者、および調査日に欠席した学生は対象から除外した。<br> 調査は自己記入式アンケートを作成し、一斉法にて実施した。調査項目は、先行研究を参考に、「職業的アイデンティティ」の4因子(「理学療法士選択への自信」「自分の理学療法士観の確立」「理学療法士として必要とされることへの自負」「社会貢献への志向」)と、その他意欲面を「PTになりたいという気持ち」(0;なりたくない~10;非常になりたい)、「学業への取り組み方」(1;非常に意欲低下~4;非常に熱心)で調査した。統計解析はDr.SPSS IIfor Windowsを用い、Mann-whitney検定を行った。なお、本調査実施前に対象者へ文章および口頭で説明し、同意を得てから実施した。<br>【結果】<br> 成績上位群と成績下位群間において、「職業的アイデンティティ」の「医療職選択への自信」(p=0.002)、「PTになりたいという気持ち」(p=0.004)については、成績上位群の方が成績下位群に比べて有意に高い結果であった。しかし、「自分の医療職観」「医療職として必要とされることへの自負」「社会貢献への志向」「学業への取り組み方」には、成績上位群と成績下位群間で差を認めなかった。<br>【考察】<br> 職業イメージを早期に持つことは、「医療職選択への自信」や「PTになりたい」という意欲や意識を高め、さらに学内成績に影響を及ぼしたと考えられる。「職業的アイデンティティ」を高めることが直接の教育目標ではないが、学習意欲や学内成績へ影響を与えうるような教育環境の整備が必要と思われる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205625778688
  • NII論文ID
    130006985933
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2009.0.54.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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