肺炎患者が在宅復帰するために
抄録
【目的】<BR> 2000年に介護保険法が施行され,在宅生活を促す方向へ変化している.そのため肺炎入院後,いかに身体機能を落とさず早期退院を促すかが重要となる.本調査では,肺炎患者が自宅復帰できるかどうかの可否を決定する因子として何があるのかを把握することで,自宅復帰を可能にするためにどのような視点で関わっていくべきか検討することを目的とした.<BR>【方法】<BR> 対象は平成19年11月からの6ヶ月間に肺炎の診断名で入院となった症例のうち,自宅で発症した81例(男性53例,女性28例,平均年齢79.3±13.4歳)とした.退院の転帰が自宅であった群を自宅群(67例),自宅以外であった群を非自宅群(14例)とし,入院期間は自宅群が15.1±8.8日,非自宅群が36.9±27.1日であった.除外基準は入院中に肺炎以外の治療が必要であった症例とした.対象患者について,18項目をカルテより後方視的に調査した.ただし,データ処理は各個人が特定できないように配慮し,必要な情報のみ抽出した.また調査は当院の施設長及び当科責任者の許可を得て実施した.<BR>統計処理は自宅群と非自宅群との比較で,18項目についてMann-Whitney検定もしくはχ2独立性検定を行った.この結果から独立変数を決定し,自宅復帰を従属変数とした判別分析を行った.統計処理にはSPSS11.5 J for Windowsを用い,有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】<BR> 自宅群と非自宅群との比較で有意な関係を認めたのは18項目のうち7項目で,この 7項目を独立変数とした判別分析を行った.なお独立変数間の相関関係において多重共線性の影響が無いことを確認した.その結果,誤嚥の有無,重症度,退院時のADL能力が自宅復帰に影響を与える要因として選択された.<BR>【考察】<BR> 肺炎患者において嚥下能力の低下はよく見られる症状の一つである.嚥下機能障害に関連した誤嚥性肺炎が多くを占める高齢者の肺炎は,急速に進行し重症化することも多い.よって入院時の食事形態の検討は,より慎重を要する必要がある.また,食事中や食事後の姿勢の調節やムセの確認など他職種と協力し注意を払わなければならない.<BR>次に,前本らは重症度の高い患者ほど臥床期間が遷延することを予期しなければならないと報告している.重症化に伴い,入院中の活動量は低下し入院期間は長期化すると考えられる.先行研究で肺炎の重症度が入院期間や生命予後の規定因子として報告されているが,本調査の結果,重症度が生命予後だけでなく自宅復帰の可否という社会的予後についても示唆できると考えられる.<BR>また退院前後に比べて入院期間中は身体活動性が少なく,在宅生活を図るための活動量が不足していると報告があるが,本調査でも入院期間中の身体活動量は減少している傾向は見られた.その結果,ADL能力が低下している可能性がある.ADL能力の低下が高齢者市中肺炎発症の危険因子の一つとされているため,入院期間の長期化による身体活動量の減少とADL能力の低下を病棟のスタッフと協力し予防しなければならない.
収録刊行物
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- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 2010 (0), 114-114, 2010
九州理学療法士・作業療法士合同学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205625808128
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- NII論文ID
- 130006985958
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- ISSN
- 24238899
- 09152032
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可