強直性脊椎骨増殖症による脊柱可動性低下により前方移乗動作獲得に難渋した頸髄損傷者

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  • ~新たに改良した自助具により移乗動作獲得に至った症例~

抄録

<p>【はじめに】</p><p>下位頸髄損傷者は上肢機能良好なため、移乗動作を獲得し、多くのADLが自立可能とされている。今回、ASIA神経損傷高位C8/T1レベルにも関わらず、脊柱可動性低下により手部が膝窩に十分届かないリーチ不足から前方移乗動作獲得に難渋した症例を経験した。可動性低下は強直性脊椎骨増殖症(以下ASH)の合併によるものであり、頸髄損傷者にとってADLの大きな阻害因子となる。そこで、リーチ不足を補う目的で新たに改良したループ型自助具(以下ループ)の作製・使用を試みた結果、下肢拳上可能となり、前方移乗動作獲得に至ったため、ここに報告する。</p><p>【対象】</p><p>転落により第6頸椎脱臼骨折を負った60代男性。受傷後A病院へ搬送され、受傷4日後に当院へ入院し、翌日よりリハビリ開始。以下、身体機能評価記載。身長:170.0㎝。体重:75.2㎏(BMI:26.0)。改良Frankel:B2(腋窩以下感覚鈍麻)。神経損傷高位:C8/T1。MMT(ASIAに基づき)肘屈筋(C5):5/5、手関節背屈筋(C6):5/5、肘伸筋(C7):4/5、中指末節屈筋(C8):4/5、小指外転筋(T1):4/4、体幹・下肢筋力0。ROM胸腰部(屈曲:25°、伸展:-10°、回旋:20°/20°)。握力:8.8/11.4㎏。X線:ASHにより第1胸椎から第3腰椎まで連続した広範囲な前縦靭帯骨化に加え、第1胸椎から第7胸椎まで連続した後縦靭帯骨化が認められた。頸椎及び第3腰椎から第1仙椎、仙腸関節の可動性は温存されている。</p><p>【経過】</p><p>受傷後1ヶ月から前方移乗練習開始。練習開始当初は四肢・脊柱可動性が低く、移乗初期動作である車いす後方グリップへの上肢引っかけ動作や、車いす上での臀部前方移動動作が困難であった。特に下肢拳上動作はリーチ不足に加え、肥満による下肢肥大から困難を極めた。そのためリハビリ初期より徒手や重錘を用いて脊柱可動域拡大運動を実施したが、受傷4.5ヶ月経過しても改善がみられないため、ループの作製・使用を試みた。</p><p>【結果】</p><p>ループを使用し、下肢拳上を行うことで、動作開始からプラットホームまで、4分間程度で移乗動作可能となった。ループは円形で、真ん中付近に持ち替え用の紐が1つ付いている。ループを足底に引っかけ肘関節屈曲により足部をプラットホーム縁に乗せるが、ループの使用により力点となる手部が膝窩から大腿上方に位置変更されるため、脊柱屈曲を伴わず下肢拳上可能となった。また、紐の持ち替えにより、股関節深屈曲を伴わず股関節外旋による靴脱ぎ、膝関節伸展による下肢投げ出しが可能となるため、下肢拳上に伴う上肢負荷量が軽減された。ループの長さは下腿長34㎝に加え、肘関節屈曲時に力が入りやすいポジションを考慮し60㎝(持ち替え用の紐までの長さは40㎝)とした。</p><p>【考察】</p><p>須田らはASHに伴う頸髄損傷を、5年間で14例経験しており、今回の報告と同様の症例は少なくないと報告している。脊椎骨折は、多椎間にわたり強直した脊椎のなかで、骨化していない部分に外力が集中して生じると考えられている。本症例においても第1胸椎から下位胸椎、及び腰椎まで連続した前・後縦靭帯骨化が認められていることから、頸椎脱臼骨折の要因になったと考えられる。ASHに伴う脊柱可動性低下は、頸髄損傷者にとってPushup動作などの大きな阻害因子となる。今回、本症例が前方移乗動作獲得に至ったのは、ループによる脊柱可動性低下由来のリーチ不足改善が一番の要因であると考える。近年の脊髄損傷者は、高齢化に伴い頸髄損傷者が増加傾向にあり、加齢により脊柱可動性が低下した症例は少なくないことから、本報告が下肢拳上動作を補助する有用な方法であると考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ご本人及び当院倫理委員会の承認を得ている。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205626095616
  • NII論文ID
    130005175335
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2016.0_265
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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