利き手と非利き手の運動機能のデジタル描画法による比較

DOI

抄録

【目的】<BR>  我々は頚髄症などに起因する上肢機能障害の定量的評価を実現するために,座標,筆圧のデータを経時的に取得できる,ペンタブレットを活用したシステムを試作し,利き手の描画能力から頚髄症患者のmyelopathy handを検出可能であることを見出した.しかし,myelopathy handは頚髄症の進行の過程において左右差を認めた報告が多くなされており,利き手側のみの評価では不十分である.しかも,利き手・非利き手の問題と疾患による障害の問題が混在する可能性があり,両者を判別できる必要がある.そこで今回は,利き手と非利き手との描画の特徴を明らかにするために,障害を持たない健常成人(以下若年者)と健常高齢者(以下高齢者)を対象として運動機能の観点から調べた.<BR> <BR> 【方法】<BR>  本研究では体幹および上肢に整形外科的・神経学的疾患の既往のない若年者21名(年齢23.1 ± 2.3歳)および高齢者22名(年齢75.2 ± 8.7歳)を対象とし,全員が右利きで,本課題を遂行できた.被験者にはペンタブレット(WACOM社製,Intuos3 PTZ-930)上に提示された正弦波図形をデジタルペンでなぞる描画課題を利き手と非利き手で各1回ずつ快適速度で行い,描画中はデジタルペン以外がタブレットと触れないように指示した.算出した諸量は垂直方向の座標値誤差,筆圧平均値,筆圧変化量,描画時間である.利き手と非利き手との比較には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%と設定した.<BR> <BR> 【説明と同意】<BR>  研究開始に先立ち,当大学の倫理委員会にて研究計画の承認を得た.また,全被験者に対して本研究の目的や方法などに関する説明を十分に行い,口頭および書面にて同意を得た後に臨床研究を実施した.<BR> <BR> 【結果】<BR>  利き手に対する非利き手の諸量は,若年者では,座標値誤差は0.99 ± 0.01に対し1.00 ± 0.02と,筆圧変化量は9.1 ± 3.9に対し16.2 ± 6.1と,一方,高齢者では,座標値誤差は1.01 ± 0.03に対し1.03 ± 0.03と,筆圧変化量は12.3 ± 3.5に対し20.0 ± 8.1と有意に大きかった(p = 0.000-0.002).しかし,その他の項目(筆圧平均値,描画時間)では有意差を認めなかった(p > 0.05).<BR> <BR> 【考察】<BR>  今回,年齢に関わらず,非利き手側の座標値誤差および筆圧変化量が,利き手のそれらより有意に大きいことを見出した.座標値誤差の増加は最適ではなく冗長な経路を辿る動作であることを示し,巧緻性が未熟なためであろう.同様に,筆圧変化量の増加は筋骨格系の円滑な出力の欠如を示唆する.言い換えると,一般的に認識されているように,非利き手は年齢に関わらず利き手より運動機能が拙劣であると推定される.こうした運動機能の違いは,頚髄症の一つの評価法である10秒テストを用いた研究では健常者の場合認められないが,我々の評価システムでは巧緻性を検出できかつ定量的に評価できる.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205626323840
  • NII論文ID
    130006986403
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2010.0.226.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ