電動車椅子の導入により他の移動能力に向上が見られた一症例

DOI
  • 守屋 聡子
    佐賀整肢学園 からつ医療福祉センター
  • 原 寛道
    佐賀整肢学園 からつ医療福祉センター

Abstract

【はじめに】<BR>実用的な移動手段を持たなかった児に、電動車椅子(以下、電動w/c)を試行した。その結果、活動への自発性が増し、床上移動や自走式車椅子(以下、w/c)駆動能力にも向上が見られた。これらの経過に考察を加え報告する。なお報告にあたり本人・保護者の同意を得た。<BR>【症例紹介】<BR>小学3年生の脳性まひ(痙直型四肢まひ)を持つ男児。GMFCS・MACS共にレベルIV。WISC-III言語性IQ95、動作性IQ60、全検査IQ76。こどものための機能的自立度評価表(以下、WeeFIM)得点59点。移動はw/cで全介助。努力を強制すると左右への寝返り、摩擦の少ない床上でずり這い2m程度、屋内w/c駆動5m程度可能だが、過度な時間を要し実用性はない。床上・w/c共に移動は受身的で、自ら介助を求めることもしない。日常生活動作(以下、ADL)にもその傾向は見られ、したいことを伝えることはほとんどない。児の知的・身体的機能から、電動w/c操作は可能と予測されたが、母親は電動w/cの使用でw/c駆動能力が低下する可能性を危惧していた。<BR>【目的】<BR>自力で移動できる経験を通じ、自発的に活動する意欲を高める。<BR>【方法】<BR>週1回、約2ヶ月間、電動w/c操作練習を行った。その後1ヶ月間、電動w/cを貸し出した。試行前後にWeeFIM及び独自のADL評価表を作成し実施した。独自の評価は、ベッドから降りる等、注目した10項目について意欲と遂行度を各3段階、0点~2点に分け採点した。各段階は、意欲の尺度を「促してもしようとしない・促せばしようとする・自発的にしようとする」、遂行度の尺度を「できない・少しできる・できる」とした。<BR>【結果】<BR>開始から間もなく電動w/cでの屋内移動が監視下で可能となった。練習中に活動を自ら考え他者を誘って行動する様子が見られた。家庭では、自発的にずり這いで布団から出ようとする、隣の部屋へ行こうとするなどの行動が見られ始めた。また、学校では自発的にw/c駆動に取り組むようになった。電動w/c貸出期間中には、より生活場面に沿った操作が可能となった。貸出終了時、w/cを自発的に駆動し、困難な時は自ら介助を求めるようになった。WeeFIM得点は59点が61点に上がり、そのうち1点は移動の項目であった。独自の評価では、意欲の得点が7点から17点へ、遂行度が4点から16点に上がった。児の様子をみて、母親は電動w/cの購入を希望するようになった。<BR>【考察】<BR>今まで児の活動が受身的だったのは、移動の成功体験がないことからのあきらめと、求めなくとも介助してもらえる環境が原因と考えられた。児は電動w/cで自力移動を経験し、これが自信となって、床上移動やw/c駆動も自発的に行うようになり、その結果、短期間で能力が向上したと考える。また、主体となって活動した経験が、活動への積極性を高め、自力移動が困難な際は自発的に介助を頼めるようになったと考える。この結果より、活動に参加する手段としての移動は代償的なものであってもできるだけ早期に提供し、経験してもらう必要があると感じた。

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205626342528
  • NII Article ID
    130006986437
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2010.0.232.0
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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