胸部食道癌術後に循環器系合併症を認めた1症例

DOI
  • 門脇 敬
    社会医療法人財団池友会 福岡和白病院
  • 田村 宏兵
    社会医療法人財団池友会 福岡和白病院

抄録

<p>【はじめに】</p><p>?食道癌をはじめとする開胸・開腹手術では術後呼吸器合併症を予防し、創部の癒着を軽減する目的で、術後早期もしくは術前から理学療法が介入する必要がある。しかし、胸部食道癌の手術では頸部・胸部・腹部の3経路からアプローチしており、且つ食道再建経路が胸骨後経路である場合、術部が心臓と隣接しているため、術後の循環器系合併症にも注意しなければならない。これまで周術期からの理学療法介入が呼吸器合併症の予防・早期離床に繋がるとする報告は多いが、循環器系合併症を起こした症例についての報告は少ない。今回、術前より期外収縮を有しており、術後数日から心房細動・心室性期外収縮を合併した症例を担当したので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>55歳男性、術前BMI:21.1、アルブミン:3.7g/dl、病期T3N1M0stageⅢA、右開胸開腹食道亜全摘術・胸骨後食道胃吻合術・胃瘻造設術・3領域リンパ節郭清術を施行。手術時間:670分、術中出血量:550ml。入院前は腫瘍の圧迫による食物の通過障害を起こしており、手術の約2か月前より入院での術前化学療法(FP療法)を実施。術前ECGでは心室性期外収縮および右脚ブロック(HR:64bpm)を認めたが、心エコーでの器質的疾患は認めなかった(LVEF:79%)。</p><p>【経過】</p><p>?術後2日目よりリハビリ開始、立位・歩行訓練5m実施。安静時HR:100bpm台、歩行時HR:130bpm台まで上昇を認めたが、洞調律であった。術後5日目まで安静時・歩行時ともにHR:80-90bpm台であり、徐々に歩行距離を延長。術後6日目より安静時HR:120bpm台(af波形、VPC散発)、Dr.に確認しリハビリは継続。経過を追うも、連発・2段脈等を認めるため、術後14日目に循環器内科よりβ1遮断薬(ビソノテープ)が処方され、徐々に期外収縮軽減。術後26日目にマシントレーニングでの有酸素運動を開始。術後36日目に常食開始、食事摂取後一時的に期外収縮の増悪。しかしその後は、VPCの散発はあるものの全身状態改善し、院内ADLも全自立となったため、術後55日目に自宅退院された。</p><p>【考察】</p><p>?胸部食道癌根治術は頸部・胸部・腹部の3経路からアプローチするため、手術侵襲が極めて大きく手術時間も長いため術中の輸液量も多くなり、術後refillingが生じ易いとされている。また、リンパ節の広範囲郭清・術後疼痛・ストレス等により交感神経過活動となり、術後循環動態が不安定となりやすい。食道再建の経路は胸壁前、胸壁後、後縦隔の3経路があるが、美容上の外観・再処置のしやすさから、胸骨後経路が最も多く施行されている。しかし、胸骨後経路では再建臓器による心臓の圧迫などのリスクもある。今回の症例では術前より期外収縮を認めており、術後理学療法介入には特に注意を要したが、術後6日目より不整脈が起こり始めたのは術後の急激な循環動態の変化が原因と考えられた。術後の呼吸器合併症予防を目的に早期離床が求められる中で、安全に術後理学療法を行うためにVital signや自覚症状に加え、in/outバランス・体重変化などの循環動態を把握することの重要さを改めて感じた。</p><p>【まとめ】</p><p>?当院での食道癌手術件数はまだ少なく年間5~10例であり、術前からの理学療法介入が定着していないのが現状である。今回の症例を通して、今後は当院でも術前からの理学療法介入を含めたクリティカルパスの作成を行い、安全かつ早期に自宅復帰ができるように体制を整えることが必要と考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>今回の報告の目的に関して、患者に十分に説明を行い、同意を得た。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205626356608
  • NII論文ID
    130005175527
  • DOI
    10.11496/kyushuptot.2016.0_91
  • ISSN
    24238899
    09152032
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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