橈骨頭骨折の前腕回旋運動を利用した肘関節可動域訓練
説明
【はじめに】<BR> 橈骨頭骨折は肘関節伸展位で手をつくことによって上腕骨小頭と橈骨頭が衝突して起こる骨折である。肘関節の屈曲伸展運動は骨折部への負荷が高まりやすいため再転位の危険がある。また、初期治療後2から4週間は肘関節90度屈曲位でのギプス固定が一般的とされており、固定除去後の肘関節の拘縮は避けられない。そこで我々は、術後早い時期より前腕回旋肢位を利用した肘関節可動域訓練を行うことで骨片の転位も生じることなく良好な成績を得ることができた。今回は比較的長期間経過・観察することのできた2症例を報告する。<BR>【症例紹介】<BR>症例1:53歳 女性 主婦 右橈骨頭骨折 Morrey分類2型 外側側副靭帯損傷<BR>症例2:62歳 女性 主婦 右橈骨頭骨折 Morrey分類2型<BR>【受傷時レントゲン所見】<BR>症例1:橈骨頭の腕頭関節面2分の1にT字型の骨折線がみられ陥没していた。症例2:2つの骨片があり、一方が長軸方向に陥没し、もう一方が外側方向に転位し陥没していた。両症例とも前腕回外位で陥没骨片が外側に位置していた。<BR>【手術所見】<BR> 両症例とも陥没骨片に対して2本のキルシュナー光線にて経髄的整復固定を行い、肘関節90度位でシーネ固定とした。<BR> 症例1は、内反にストレスを加えたときに約15度の不安定性があった。(放置) <BR> 症例2は、橈骨頭外側の転位骨片に対して、注射針で整復の手助けを行った。<BR>【OTプログラム】<BR> 両症例とも術後3日目よりシーネ内にて自他動による前腕回内外運動を開始した。術後1週経過時より、訓練時のみシーネ除去して前腕中間位での肘関節伸展運動、前腕回外位での肘関節屈曲運動を開始した。術後3週経過時にシーネ除去したが、手を着く動作や重いものを持つ動作を禁止した。<BR> 症例1は、訓練の際内反しないように十分注意しながら行った。術後4週経過時のレントゲンでは再転位もなく、ある程度の骨癒合が得られたのでゴムベルトによる他動屈曲運動と筋力強化訓練を開始した。術後9週経過時のレントゲンでは強固な骨癒合が得られたため制限なくADLでの使用を許可した。<BR> 症例2は、術後6週経過時のレントゲンで、ある程度の骨癒合が得られたためゴムベルトによる他動屈曲運動と筋力強化訓練を開始した。術後10週経過時のレントゲンでは強固な骨癒合が得られたため制限なくADLでの使用を許可した。<BR>【経過・結果】<BR> 両症例ともに術後3週経過時に前腕回内外制限はなかった。術後8週経過時には、症例1は肘関節屈曲138度、伸展-2度、握力右16kg、左21kgまで回復し、症例2は肘関節屈曲135度、伸展0度、握力右15kg、左23kgまで回復した。両症例とも肘関節の痛みの訴えもなくADL面において支障なく生活することができている。<BR>【考察】<BR> 橈骨頭は僅かな柔軟性を持つ輪状靭帯に囲まれており、その中で前腕回内外時に回旋運動と僅かな前後運動を行っている。今回、輪状靭帯の「はちまき効果」を最大限に活用するため、陥没骨片に対し経髄的整復固定を行うことで、より整復・安定化することができた。また橈骨頭の回旋運動では、横断面での回旋運動が主であるため、上腕骨小頭からの負荷がかかりにくい。これらによって、術後早期での前腕回内外運動が可能であった。一般的に外傷性拘縮例の関節運動は滑らかな運動ではなくbook-open様な異常な関節運動になりやすい。肘関節も例外ではなく、伊藤によれば腕尺関節でbook-open様な異常な関節運動が起こるとされている。今回我々は腕尺関節だけでなく腕橈関節においてもbook-open様な異常な関節運動が起こっていることを明らかにした。レントゲン所見より両症例とも前腕回外位で陥没骨片が外側に位置していた。そのため、陥没骨片が前方へくる前腕中間位での肘関節伸展運動を行った。肘関節屈曲運動の際は、陥没骨片を内外側どちらかに移動させた方が安全であると考えた。カパンディによると回内時に橈骨頭の近位面は遠位かつ外側に傾斜するため、前腕回内位での肘関節屈曲運動は陥没骨片への負荷が高まりやすいと考えた。そのため前腕回外位での肘関節屈曲運動を行った。 これらの運動は腕橈関節で行われているbook-open様な異常な関節運動に対して陥没骨片へ負荷を可能な限り除去した安全な運動である。
収録刊行物
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- 九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 2004 (0), 84-84, 2004
九州理学療法士・作業療法士合同学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205626428416
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- NII論文ID
- 130006986542
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- ISSN
- 24238899
- 09152032
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可