類人猿の足の骨間筋について

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  • On the arrangement of the interossei pedis in apes

抄録

 ヒトの足の特徴のひとつは、「機能軸」の内側シフトである。機能軸とは歩く際に足のテコの梁として働き得る仮想の軸のことで、多くの霊長類では第3趾や第4趾上にあるのに対し、ヒトでは足の機能軸は第1趾と第2趾の間を通る。機能軸の位置は骨計測によって推定されることが多いが、歩行時の足の動きは筋配置にも関連するため、筋配置、特に骨間筋からの推定も可能である。足の7つの骨間筋は中足趾節関節で第2-5趾を屈曲、および外転(背側骨間筋)あるいは内転(底側骨間筋)させるが、それらがサル類では第3趾周りに、ヒトでは第2趾まわりに配置されている。つまり、底側骨間筋が収縮すると、マカク等のサル類では第3趾を中心として趾が内転かつ屈曲するのに対し、ヒトでは第2趾が中心となる。こうした骨間筋の筋配置の変化がどのようにして起こったのかを知るためには類人猿の知見が重要だが、報告は極めて限られている。我々のこれまでの観察では、チンパンジー1頭(1足)の骨間筋は第3趾まわりに配置されていた(Hirasaki & Kumakura, 2010)のに対し、ボノボ1頭(1足)では第2趾に機能軸があった。今回、チンパンジー3頭(5足)、およびゴリラ1頭(両足)の標本を得たので、それらの骨間筋について肉眼解剖学的な観察を行った。その結果、チンパンジーのうち2頭(3足)とゴリラ1頭(両足)においては骨間筋は第2趾まわりに、チンパンジー1頭(2足)では第3趾まわりに配置されていることが判明した。チンパンジーについては、既に得ていたものと合わせると、4頭中2頭がヒト的、2頭がサル的な状態にあったことになる。いずれの個体でも左右の足の間に違いは無かった。これまで類人猿の骨間筋の配置については意見が分かれていたが、その背景には変異の大きさがあることが、今回の観察から明らかとなった。また、骨間筋が第3趾まわりに配置されていた個体においても、その状態はヒトのものとはやや異なり、第2、3中足骨の間に背側骨間筋と底側骨間筋が並走していた。これは、足の骨間筋の配置が「サル的状態」から「ヒト的状態」へと変化する際の“中間形態”として我々が予測した状態であり、我々の説を裏付ける観察結果となった。今後、こうした変化を生じさせた力学的要因を生機構学的アプローチで探るとともに、変異の頻度を知るために観察例数を増やす必要がある。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205634737920
  • NII論文ID
    130006997153
  • DOI
    10.14907/primate.27.0.58.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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