八ヶ岳の亜高山帯針葉樹林における森林動態に及ぼすシカの影響

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抄録

 八ヶ岳ではニホンジカ(Cervus nippon,以下,シカとする)の採食圧による高山植物の衰退,消失が報告され始めており,被害実態の把握と適正密度を目標としたシカの個体数管理が求められている.そこで本研究では,八ヶ岳の亜高山帯針葉樹林における長期モニタリングより,シカの採食圧による被害実態を明らかにした.八ヶ岳麦草峠周辺のシラビソ -オオシラビソ混交林で調査を実施した.2010~2012年に実施したスポットライトセンサスより,本地域の平均シカ出現頻度は 2.6 ± 0.3頭 /kmだった.はじめに, ① 2001年 ~2011年にかけて林床にササ以外の植物が優占する林内(NS林)と,ササが優占する林内(S林)にそれぞれ設置した 1haプロット内において,出現した全樹木の胸高直径およびシカの食害の有無が記録されたデータを用いた.各プロット内の全樹木の生存本数および枯死本数から,樹木の死亡率および新規加入率を求め,シカの樹皮剥ぎが認められた樹木本数から剥皮本数割合を明らかにした.そして, ② 2010年 9月,11月,2012年 1月,6月に,採集したシカの糞粒から,シカの摂食食物構成を糞分析法によって明らかにした. ① 2001~2007年および 2007~2011年の NS林における幼木(胸高直径 5cm未満)の死亡率は,それぞれ2.2%,1.7%,新規加入率は1.8%,4.1%だった.一方,S林における幼木の死亡率は,それぞれ16.7%,12.9%となり,同時期の新規加入率(0.1%,0.0%)に比べて顕著に高かった.さらに,2003年,2007年,2011年のそれぞれの調査年までの S林の剥皮本数割合(4.2%,1.3%,19.0%)は, NS林(0.1%,0.3%,1.6%)に比べて有意に高かった(P < 0.01). ②全ての季節で糞中の植物片に認められたササの葉の割合は他の植物種に比べて有意に高く(P < 0.05),年間を通じて 60~70%だった.以上より,S林ではシカの採食圧が森林動態に深刻な影響を及ぼしていることが明らかになった.

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  • CRID
    1390001205634994816
  • NII論文ID
    130005471642
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_229_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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