ニホンイノシシの胎齢推定の精度の検討

説明

 野生動物の繁殖特性は,個体群動態の把握の基盤情報であるため,適正管理を実施していく上で不可欠である.科学的根拠に基づく繁殖情報が乏しかったニホンイノシシについて,演者らは,これまでに妊娠率や胎子数,繁殖時期という基本的な特性を明らかにした(辻 2013,Tsuji et.al.2013).その中で,繁殖時期の算出に用いる胎齢推定において,多胎動物特有の同腹胎子間での胎齢の違いを整理することが課題として挙げられた.そこで本研究では,一腹内の胎齢のばらつきの幅を明らかにし,胎齢推定の精度を検討することを目的とした.<br> 材料は,2004~ 2013年に兵庫県で捕獲された妊娠個体 46頭から得られた胎子 187頭を用いた.まず胎子体重を計測し,推定式T = P1/3/0.097 + 21.1379(T:胎齢,P:胎子体重)にて胎齢を算出した.次に一腹内の胎子体重の最小値と最大値から,一腹内の胎齢の差を算出した.また胎子の各成長段階の指標となる外部形態の観察を行った.<br> その結果,一腹内の胎齢の差は 0~ 10日であり,1例が 16日であった.胎齢差が 8日以上あった 5例では,最小胎子体重がそれ以外の胎子体重よりも極端に小さかった.ただし胎子の外部形態の観察では,一腹内で成長段階にずれはほとんど認められなかった.また一腹内の胎齢差と妊娠期間は有意に相関し(P<0.01),妊娠後期ほどその差が大きくなった.<br> 以上より,本種では,同腹胎子の体サイズのばらつきにより,厳密な胎齢算出は難しいことが明らかとなった.とくに急激に体重が増加する妊娠後期は,個体差が大きくなりやすいため,胎齢のばらつきが大きくなることが示唆された.ただし体サイズが小さい個体でも成長遅延は認められなかったことから,現段階では,全ての胎子を用いて平均胎齢の算出をするべきと考える.そのため算出される受胎日や出産日にも幅を持たせる必要がある.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205635074304
  • NII論文ID
    130005471686
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_236_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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