解毒代謝酵素GSTM1の遺伝子全長欠失多型はヒト-チンパンジー間で独立に生じた

DOI

抄録

解毒代謝酵素グルタチオン-s-トランスフェラーゼ1(GSTM1)の遺伝子の全長欠失多型はさまざまな人類集団においてみられる。この遺伝子欠失は,GSTM1遺伝子の両隣にある極めて類似した配列(スキップ配列)が染色体の組み換えを引き起こすことによって生じると考えられている。我々は公開データベースによる霊長類ゲノムデータを比較することにより,チンパンジーのGSTM1遺伝子の両隣にもスキップ配列が存在することを昨年報告した。今回,我々はチンパンジー18頭を対象とし,GSTM1遺伝子のタイピングおよび配列解析をおこなった。タイピングの結果,18頭のうちGSTM1野生型ホモが9頭,ヘテロが7頭,欠失型ホモが2頭であり,ヒト同様,チンパンジーでもGSTM1遺伝子欠失多型が見られることが分かった。さらに,ヒトとチンパンジーのGSTM1遺伝子欠失アリルが,同祖的なものか独立なものかを調べるため,ヘテロ接合であった7頭において,ダイレクトシーケンシング法を用い,GSTM1欠失型アリル上にある,組み換え部位の配列を決定した。このようにして解読したチンパンジーの組み換え部位配列と,同様に解読したヒトの組み換え部位配列,さらにRefseqより得られた,野生型のチンパンジーおよびヒトがもつ,それぞれのGSTM1遺伝子の両隣にあるスキップ配列(およそ12800塩基)を比較した。近隣結合法によって分子系統樹を構築した結果,チンパンジー7個体の融合スキップ配列は,ヒトの融合スキップ配列とではなく,チンパンジーの5’側スキップ配列とクラスターを形成した。このことから,チンパンジーのGSTM1欠失型アリルはヒトのGSTM1欠失型アリルとは独立に,種分化より後に生じたと考えられる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205635376000
  • NII論文ID
    130005485729
  • DOI
    10.14907/primate.31.0_54_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ