テングザルの吐き戻し行動
書誌事項
- タイトル別名
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- Regurgitation behavior of the proboscis monkey
説明
東南アジアのボルネオ島にのみ生息するテングザルNasalis larvatusは、コロブス亜科に属する。コロブス亜科は嚢状に大きく発達した前胃を有し、その内部にはセルロース分解菌などの微生物が棲息し、その分解作用により、本来消化できない高繊維質の食物から栄養を得ることができ、さらに植物に含まれる有害な消化阻害物質などを無毒化できる。コロブス亜科の前胃の構造と機能は、反芻動物の反芻胃と類似した点が多いが、摂食物を胃から口腔内へ吐き戻して再咀嚼する反芻行動は、コロブス亜科において今まで報告がなかった。しかし今回テングザルにおいて吐き戻し及び再咀嚼するのを観察した。そこで本研究ではテングザルの吐き戻し行動の概要と食性との関連について調査し、コロブス亜科における吐き戻し行動の発生要因と意義について考察した。<br> 本研究では、テングザルの行動を撮影したビデオを用いて、個体・食性・吐き戻し行動に関するデータを収集し解析を行った。ビデオは2000年1月から2001年3月までの期間にボルネオ島(マレーシア・サバ州)キナバタンガン川支流流域で撮影されたものである。<br> テングザルの吐き戻し行動は、計195時間の撮影時間において23例と極めて低い頻度で観察された。吐き戻し行動は、新生児を除く全ての齢段階の個体で見られ、全て午前中の休息時に行われていた。午前に吐き戻しを行う理由として、胃内容物によって採食量が制限されるのを防ぐために採食前に胃内容物の通過を促すことが推測された。テングザルの採食時間は葉・果実・花の採食が大部分を占めたが、各部位採食時間の割合は月ごとに異なった。吐き戻し行動の観察頻度は、葉の採食時間との間に有意な正の相関を示した。そのため、採食において葉への依存が高いときに吐き戻しが起こりやすくなる、つまり繊維質の高い食物を摂食すると吐き戻しが誘発されやすいと考えられる。
収録刊行物
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- 霊長類研究 Supplement
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霊長類研究 Supplement 23 (0), 46-46, 2007
日本霊長類学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205635928192
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- NII論文ID
- 130006998500
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可