ゴリラの正中神経経由で手内在筋を支配するヒトの尺骨神経深枝相当の神経束について:ヒトのMartin-Gruber anastomosisと比較

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【目的】ゴリラの上肢で,肘レベルで正中神経の本幹から分岐し前腕前面を斜走して手関節尺側縁に至り,手掌深部に入って手内在筋を支配する尺骨神経深枝相当の比較的太い神経束が見られた.この神経束が腕神経叢のどの神経根・幹・束に由来するのか,尺骨神経を構成する神経線維束との関係を検討し,ヒトの正中・尺骨神経間の Martin-Gruber anastomosisと比較検討することである.<br>【材料・方法】材料はメスのニシゴリラ Gorilla gorilla(推定年齢 40歳)の頚椎外側縁で切断された右上肢である.骨・関節を抜いて神経根レベルから指先までの筋肉神経標本を作製した.手術顕微鏡視下でこの神経を近位方向に腕神経叢の神経根レベル迄可及的に神経上膜を除去して神経周膜に被覆された神経線維束を追究した.<br>【結果】正中神経から前骨間神経が分岐する円回内筋レベルで,その尺側からこの神経束は分岐していた.前腕近位部で尺骨神経から分岐した細い枝が二分しこの神経束と交通していた.手関節尺側縁に達したこの神経束は有鉤骨鉤の尺側を回って手掌深部に入っていた.手掌深部で環・小指列の虫様筋,全骨間筋,母指内転筋を支配していた.この神経の神経線維束は前骨間神経,正中神経本幹の神経線維束と分離することができ,近位方向に追って行くと,大部分の線維束は内側神経束から来ていた.<br>【考察】Raven(1950)の Plate 40には,今回見られた神経と同様な正中神経から分岐して手関節尺側縁に走る神経が描かれている.ヒトでは内側神経束から尺骨神経を経由して手の内在筋に至る神経線維束(深枝)が,内側神経束から正中神経に入りそこからこの神経を経由して手の内在筋に達している.Hepburn(1892)によれば,ある種の霊長類では正中神経と尺骨神経の交通は普通に見られるという.進化の一過程なのかもしれない.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205636110208
  • NII Article ID
    130005471784
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_73_1
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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