チンパンジーは自分の選択の正誤をわかっているか?

説明

近年,ヒト以外の動物において,自身の「内的状態」の認知,すなわち「メタ認知」に関する研究が数多くおこなわれている.その多くは,訓練によって形成された行動によって,自分の選択行動の確信度や記憶の内容の確実さを報告するというものである.その一方,自発的な行動から動物たちが自らの認知の状態を認識していることを示す研究はそれほど多く報告されていない.今回,弁別課題遂行時に 1個体のチンパンジー・アイが示した行動が,彼女の選択反応の確信度に対応している可能性が示唆されたので,ここに報告する.アイは,各種の写真の中から標的刺激を検出し選択する視覚探索課題に行っていたときに,選択反応直後に頻繁に報酬供給装置(フィーダー)を見るという行動を頻繁に示した.ただし,反応と同時にチャイムやブザーが鳴り,正解時にはフィーダーが作動するため,これらの外的な手がかりが,この行動の生起の手がかりとなっている可能性は否定できない.そこで,このようなフィードバックが反応直後ではなく 1秒後に提示される遅延あり条件と従来の遅延なし条件を用意し,この条件下での課題遂行中のアイの行動をビデオで記録し,選択反応直後のアイの行動を 3種類に分類して記録した.(1) No Look:フィーダーの方を見上げない,(2) Side Look:画面から目を離して横を向くがフィーダーの方は見上げない, (3) Look Up:フィーダーの方を見上げる.その結果,フィードバック遅延条件では,誤反応後にはフィーダーを見上げる行動の生起頻度が有意に低下した.正誤のフィードバックはこのような行動の生起後に与えられるので,外的な手がかりによってこの行動の変化が生じたわけではないことは明らかである.この結果は,このフィーダーの見返し行動が,アイの自分の直前の反応の正誤の確信度に対応している可能性を示唆している.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205636193280
  • NII論文ID
    130005471723
  • DOI
    10.14907/primate.29.0_255_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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