チェルノブイリ原発事故の人体影響
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- 柴田 義貞
- 長崎大 医歯薬学総合研究科 原研疫学
書誌事項
- タイトル別名
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- Health effects of the Chernobyl accident
抄録
チェルノブイリ原子力発電所の事故から既に20年が経過した。日本においては事故の3日後から新聞報道が行われたようであるが、当時の紙面には「二千人超す死者?」「がん一万人、死者数千 ソ連東欧」などの文字が躍っている。40 MCiのI-131および100 MCiの短寿命放射性ヨウ素を始めとして,総計300 MCiの放射性物質を放出した史上最悪の原発事故であり、ベラルーシ,ロシア,ウクライナの3カ国において,500万人余りが汚染地域に,そのうちの約27万人は高汚染地域に居住している。チェルノブイリ事故による一般住民の放射線被曝の態様は複雑で,原爆放射線被曝とは異なった面がある。放射性降下物による外部被曝の他に,放射性降下物で汚染された飲食物の摂取による内部被曝を受け,Cs-137など半減期の長い放射性物質に汚染された地域に住まざるを得ないため,低線量の外部被曝を長期間受け続けることになる。そのためか、人体影響も原爆被爆者の場合とはかなり異なっている。当初懸念された白血病の増加は,事故後20年が経過した現在も,一般住民においては認められていない。白血病とは対照的に,小児甲状腺がんは予想以上の高頻度で発生した。チェルノブイリ周辺は元来ヨード不足の地域であり,事故直後から放射性ヨウ素の甲状腺への取込みによる甲状腺がんの増加は懸念されていたが,これほどの増加は大方の予想を遥かに超えていた。チェルノブイリ原発事故から20年が経過したが,この20年は,「もう20年も」ではなく「未だ20年しか」と理解すべきである。現在までのところ,事故による放射線被曝との関連が認められているのは,小児期に被曝した人々における甲状腺がん(と甲状腺結節)のみである。しかし,大半の住民は今後も長期間,低線量ではあっても,放射線被曝を受け続けなければならないから,彼らの健康を注意深く監視する必要がある。
収録刊行物
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- 日本放射線影響学会大会講演要旨集
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日本放射線影響学会大会講演要旨集 2006 (0), 87-87, 2006
一般社団法人 日本放射線影響学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205640229632
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- NII論文ID
- 130007000019
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可