分裂期チェックポイント分子BUBR1は脊椎動物における繊毛形成を制御する

DOI
  • 宮本 達雄
    広島大学 原爆放射線医科学研究所 放射線ゲノム疾患研究分野
  • PORAZINSKI Sean
    英国バース大学 理学部 生化学・生物学教室
  • WANG Huijia
    英国バース大学 理学部 生化学・生物学教室
  • 清水 厚志
    慶応義塾大学 医学部 分子生物学
  • 梶井 正
    八王子
  • 菊池 章
    大阪大学大学院 医学系研究科 分子病態生化学
  • 古谷-清木 誠
    英国バース大学 理学部 生化学・生物学教室
  • 松浦 伸也
    広島大学 原爆放射線医科学研究所 放射線ゲノム疾患研究分野

書誌事項

タイトル別名
  • BUBR1, a mitotic spindle checkpoint regulator, regulates ciliogenesis in vertebrates.

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抄録

高等生物のゲノムDNAは、DNA修復機構や細胞周期チェックポイントなどによって安定的に維持されている。我々は、ヒトゲノム不安定性疾患群の分子病理機構を明らかにすることにより、電離放射線などのストレスに対する生体防御機構の理解を目指している。<BR>  分裂期チェックポイントは、染色体が均等かつ正確に娘細胞に分配されることを監視する機構である。分裂期チェックポイントの主要な構成因子BUBR1が先天的に欠損すると、染色分体早期解離(PCS)と多彩異数性モザイク(MVA)を特徴とするPCS/MVA症候群を発症する。本疾患ではWilms腫瘍や横紋筋肉腫などの悪性腫瘍を好発するほかに、Dandy-Walker奇形(後頭蓋窩嚢胞を伴う小脳低形成)や多発性腎嚢胞(尿細管の管腔サイズの拡張)を示す。悪性腫瘍はBUBR1欠損による分裂期チェックポイント異常に起因すると考えられるが、他の発生異常についてBUBR1の分子機能との関連は未解明である。<BR>  一次繊毛は、多くの細胞のG0期において細胞表面に発達する1本の非運動性の「毛」様構造であり、細胞外情報の「センサー」として機能する。遺伝性腎嚢胞疾患の原因遺伝子の多くは一次繊毛の形成と機能に関与しており、「繊毛病」として捉えられている。まず、本研究では、PCS症候群細胞で繊毛形成が低下しておりBUBR1が繊毛形成に必要であることを見出した。次に、生化学的解析よりBUBR1がG0/G1期においてCDC20のユビキチン-プロテアソーム系による分解を促進して、Anaphase-Promoting Complex/Cyclosome(APC/CCDH1)ユビキチンリガーゼ活性を維持することを明らかにした。また、BUBR1はAPC/CCDH1ユビキチンリガーゼ活性を介して繊毛形成に必要なWntシグナル伝達分子であるDishevelled(DVL)の細胞内濃度を至適化することが示された。さらに、PCS症候群のモデル動物を作製する目的で、メダカでモルフォリノアンチセンスオリゴによるBUBR1ノックダウンを行った。BUBR1欠損メダカは繊毛形成が低下しており、小脳低形成や内臓逆位が引き起こされた。以上の結果から、BUBR1の繊毛形成能力は脊椎動物に広く保存されており、PCS症候群が高発がん性だけでなく繊毛病を生じる分子病理機構が初めて明らかになった。

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