肥大型心筋症による心不全増悪を契機に呼吸不全を呈した肥満症例
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説明
【はじめに】 肥満は換気障害の原因のひとつと考えられている.今回,我々は心不全の増悪を契機に呼吸不全を呈した肥満症例に対する理学療法を経験したので報告する.<BR> 【症例】 44歳男性.身長169.5cm,体重108.0kg,BMI 37.8.07/3/20頃より下肢浮腫出現.3/26呼吸困難感増加,起座呼吸となり,3/27当院救急外来受診.肥大型心筋症による急性心不全として循環器病棟入院.入院時検査所見はPaO2: 92.7 torr,PaCO2: 65.0 torr(酸素マスク6L),CRP: 0.1mg/dl,胸部X-p上肺水腫・心拡大が認められた.心不全治療にはhANP,フロセミドが投与された.入院後,低酸素血症および高二酸化炭素血症の為,非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)を導入.しかし,不穏にてNPPVのマスクを外すなどの行為から酸素化は改善せず,3/28 SIMVモードによる挿管人工呼吸器管理となり,ICU入室となった.3/29 体温38.3℃,CRP 1.7 mg/dl,痰も認められ肺炎が疑われた.またCTにて右下葉を主とした無気肺を認め,同日,排痰・無気肺の改善を目的に理学療法が開始となった.<BR> 【経過】 聴診上、右上中葉にラ音が聴取され、背側肺の肺胞呼吸音は減弱していた。側臥位にて排痰を試みるが、聴診上は背側肺の肺胞換気の改善は認めず、十分な排痰効果は得られなかった。そこでベッドアップを試みたところ,背側肺の肺胞換気は改善し,大量の痰が喀出され,経皮的酸素飽和度(SpO2)は92%から95%へ改善した.胸部X-p上,臥位では横隔膜の挙上が著明であったが,座位では横隔膜の挙上は軽度であった.そこで,日中は座位を中心とした体位で管理することを看護師に依頼し,ベッドアップ座位を積極的に行った。翌日の3/30人工呼吸器のモードがCPAP+PSに変更され,端座位において一回換気量は背臥位の300mlから600mlへ上昇し,さらに深呼吸にて1000mlを認め,排痰も誘発された.4/4抜管しNPPV管理となり,4/5全身状態が安定してきたため,循環器病棟へ転棟となった.4/6 NPPV下にて看護師とともに車椅子座位を進めた.4/7日中NPPV離脱し酸素吸入となった.4/9 hANP off,動脈ラインが抜去され,歩行を開始.その後,徐々にADL upし,5/20退院した.<BR> 【考察・まとめ】 肥満患者は胸腔内,腹腔内の著明な脂肪沈着のため胸郭系のコンプライアンスが低下する.特に背臥位では横隔膜が挙上することで機能的残気量(FRC)が低下し,酸素化が悪化する.また、換気運動の制限により咳嗽が弱く,肺炎や無気肺を起こしうる.一方、頭部挙上位はFRCの増大,横隔膜機能の改善をもたらす.本症例は胸部X-p上、臥位において横隔膜の挙上が著明であったため,ベッドアップや端座位を積極的にとった結果、換気の改善や排痰を促進し呼吸状態が改善したと考えられた.
収録刊行物
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- 東海北陸理学療法学術大会誌
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東海北陸理学療法学術大会誌 23 (0), C014-C014, 2007
東海北陸理学療法学術大会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205666329088
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- NII論文ID
- 130007005603
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可