膝関節屈曲角度の違いによる大腿四頭筋の筋線維について

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抄録

【目的】大腿四頭筋は四つの筋より構成され、下肢障害に対する運動療法を実施するうえで、支持性と可動性の両方において重要な組織である。臨床上、内側広筋(Vastus Medialis 以下VM)の萎縮は膝関節自動伸展不全や膝蓋骨不安定症との関連で指摘されており、その運動療法に関連する報告を散見するが、膝関節伸展運動はVMの筋線維方向と一致していないことからその対応には苦慮することが多い。  今回、VMの筋線維角(pennate angle 以下P角)を超音波診断装置にて測定し、膝関節屈曲角度の違いによるVMの解剖学的な知見を検討するとともに、その得られた知見より運動療法への展開ついて若干の考察を加え報告する。 【方法】対象は本研究に同意を得た健常男性成人10名(平均年齢26歳、身長173.4_cm_、体重61.2kg)を対象とした。膝関節に既往のある者は除外した。 計測方法は被検者を端座位とし、超音波診断装置(東芝メディカルシステム社製 Xario)を用いてVMの筋線維を描出した。測定肢位は膝関節伸展位、45°屈曲位、90°屈曲位とし、測定部位は膝蓋骨上縁、膝蓋骨上5_cm_、および10_cm_とした。VMのP角の測定方法は各測定部位にプローブを短軸にあて、そこから内側に移動させて大腿直筋とVMの筋間中隔を中心にプローブを回しながらVMの筋線維が一直線上なる画像を描出した。その際のプローブのなす直線と下前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結ぶ線との角度を前額面と矢状面よりゴニオメーターを用いて計測した。計測は3回実施し、その平均値を用いた。得られた結果より各測定部位における膝関節肢位間のP角を比較検討した。  統計処理にはSPSS(17.0)を用いて一元配置の分散分析にて有意水準5%とした。さらに級内相関係数ICC(1,3)、ICC(2,3)にて信頼性を検討した。 【結果】計測方法における級内相関係数は検者内で0.91、検者間で0.82と高値を示した。  VMのP角は膝関節伸展位、45°屈曲位、90°屈曲位の順にて前額面上において膝蓋骨上縁で45.1±6.3°、40.1±6.0°、40.0±6.2°であり、有意差を認めなかった。膝蓋骨上5_cm_で39.1±4.3°、35.2±3.6°、27.8±5.9°であり、伸展位と45°屈曲位に対して90°屈曲位で有意に鋭角であった。膝蓋骨上10_cm_で35.9±3.5°、28.6±4.8°、24.9±4.9°であり、伸展位に対して45°屈曲位と90°屈曲位で有意に鋭角であった。矢状面上において同様に膝蓋骨上縁で29.6±5.6°、25.7±6.7°、22.3±5.0°であり、有意差を認めなかった。膝蓋骨上5_cm_で20.3±6.5°、16.6±3.6°、11.0±5.4°であり、伸展位と45°屈曲位に対して90°屈曲位で有意に鋭角であった。膝蓋骨上10_cm_にて16.9±4.1°、12.0±3.3°、9.0±3.3°であり、伸展位に対して45°屈曲位と90°屈曲位で有意に鋭角であった。 【考察】VMのP角は前額面と矢状面の両方において膝蓋骨上縁で有意差を認めなかった。膝蓋骨上5cmで伸展位と45°屈曲位に対して90°屈曲位で有意に鋭角であった。膝蓋骨上10_cm_で伸展位に対して45°屈曲位と90°屈曲位で有意に鋭角であった。このことよりVMのP角は前額面と矢状面ともに膝関節屈曲に伴い膝蓋骨上縁、5_cm_、10_cm_の順に近位部になるほど鋭角を認めた。  VMのP角の報告では、林らは腱膜板に最も近位で付着するP角は25.6°、膝蓋骨に最も遠位で付着するP角は40.8°であり、Liebらは縦走線維で15~18°、斜走線維で50~55°、またStrobelらはVMで17°、内側斜広筋で50であると報告している。今回の我々の膝関節伸展位での結果と諸家らの報告した数値と大きく違いを認める。これは諸家らが検体遺体を対象としたのに対し、我々は生体を対象としたために生じたと考えられる。  筋収縮は筋線維方向に滑り込みが生じることで張力が発生する。これらの筋線維配列が大腿骨長軸と一致していないために筋収縮によって生じる下腿への牽引力は伸展牽引成分と前額面上で内側牽引成分、矢状面上で深層牽引成分に分散される。つまりP角が鋭角になると伸展牽引成分は増大し、内側および深層牽引成分が減少する。今回の結果より伸展牽引成分は膝関節屈曲位からの伸展運動にて膝蓋骨上10cmの筋線維がより有効に機能し、伸展位にてVM全体が機能する。また内側牽引成分は膝関節各肢位にて膝蓋骨上縁の筋線維が有効に機能すると考えられる。これらのことよりの膝関節屈曲角度の違いによるVMの大腿筋線維方向を考慮した筋収縮を行うことが重要であると考えられる。 【まとめ】生体の内側広筋の筋線維角を超音波診断装置にて測定し、膝関節屈曲角度の違いより運動療法への展開ついて検討した。

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