巧緻性課題遂行中の声かけ効果検討

DOI
  • 松井 一訓
    八尾総合病院リハビリテーション科 富山大学大学院医学薬学研究部システム情動科学
  • 浦川 将
    富山大学大学院医学薬学研究部神経・整復学講座
  • 西野 大助
    八尾総合病院リハビリテーション科 富山大学大学院医学薬学研究部システム情動科学
  • 野上 静恵
    八尾総合病院リハビリテーション科 富山大学大学院医学薬学研究部システム情動科学
  • 石黒 幸治
    富山大学大学院医学薬学研究部システム情動科学
  • 石川 亮宏
    株式会社島津製作所
  • 小野 武年
    富山大学大学院医学薬学研究部神経・整復学講座
  • 西条 寿夫
    富山大学大学院医学薬学研究部システム情動科学

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抄録

【目的】 患者に特定の運動課題を行わせる理学療法において、結果を患者にフィードバックするとパフォーマンスが向上する場合がある。フィードバック情報には、運動によりもたらされるすべての情報が含まれ、これには運動課題の遂行に伴う固有受容感覚など患者自身が自動的に受け取る内的フィードバックと、指導者が与えることでパフォーマンスに影響を与える外的フィードバックの2種類がある。運動指導におけるフィードバック効果には、運動の正誤情報を与えるだけでなく、対象者の学習意欲を高める動機づけ効果が指摘されている。本研究では巧緻性課題の遂行中に声かけによるフィードバックを連続的に与え、学習効果に与える影響を検討した。 【方法】 身体および神経学的に問題のない右効き健常成人を、声かけを与える群(声かけあり群、13名、平均23.9歳)、声かけをしない対照群(声かけなし群、10名、平均23.3歳)に無作為に分けた。行動実験には、母指-示指を用いて小さな金属製棒(ペグ;直径3.0 mm、長さ42.0 mm)を摘まみ、約20 cm前方に位置するボードの孔(直径3.5 mm)へ差し込む巧緻性課題(ペグ課題)を行わせ、移動本数を評価した。課題プロトコルは、課題動作20秒間・安静60秒間を1サイクルとし、合計6サイクル行った。声かけは、後半の4-6サイクルの課題中に同一実験者が「もっと・速く・頑張って」という3つの言葉を無作為に繰り返し20秒間言い続けた。また、ペグ課題の行動はビデオカメラ(HANDYCAM DCR-SR60,SONY)で撮影し、オフラインにて行動解析した。ペグ課題の達成度を表す指標として、20秒間に移動できたペグの本数を「ペグスコア」として評価し、終了の合図があった時に移動動作の50%以上に達している場合は、0.5をペグの移動本数に加算した。  【結果】 ペグ課題遂行中に対する声かけ効果を検討するため、声かけあり群と声かけなし群において、両群とも声かけのない前半3サイクルと、声かけ効果の検討を行う後半3サイクルのペグスコアを、two-way repeated measures ANOVAにより統計解析した。声かけなし群は平均本数10.06本から11.08本へ、声かけあり群は10.51本から12.43本へと有意な繰り返し効果が認められた(p < 0.0001)。さらに繰り返し効果と群間との相互作用に有意差がみられ(p < 0.05)、声かけによる効果が示唆された。 【考察】 運動学習は、目的とする運動スキルを習得することで得られる成果を実行者が認知し、感覚フィードバックに基づいた意識的な運動反復を経て、最終的には無意識下でも運動を正確に遂行できるようになることで完結するとされる。本研究でみられた前半-後半のペグスコアの増加は、この運動学習過程と捉えることができる。運動学習の成立には、単に運動を繰り返すだけでは高い学習効果は得られず、パフォーマンスを向上させたいという意欲(動機づけ)の要素が重要である。動機づけの心理学的位置づけは、ヒトや動物に行動を生起させ、その行動を一貫した目標に向けさせ、かつ持続させる一連の心理過程とされている。本研究では、声かけによる運動パフォーマンスの向上がみられたが、声かけという外的フィードバックが「さらに速く行動しなければ」という動機づけとなり、ペグ課題の効率上昇をもたらしたと考える。また、声かけあり群の被験者の感想として、「頑張ろうと思った」「やる気が出た」との声も聞かれ、声かけによる動機づけ効果が示唆された。筋力トレーニング時の声かけ効果は、これまでに報告があるが、本研究によりリハビリテーション臨床場面で使用される手指巧緻動作にも声かけ効果がみられることが明らかとなった。 我々が行う理学療法の最終的な目標のひとつがパフォーマンスの向上であるが、その過程には患者の動機づけが重要な要素の一つである。本研究により、動機づけをもたらす外的な働きかけが、巧緻性動作パフォーマンスの向上に繋がることが示唆され、リハビリテーション臨床場面での効果に繋がる興味深い結果となった。またその手段として、簡便に利用できる「声かけ」の有効性が示唆された。今後、動機づけと巧緻性動作パフォーマンスに関わる脳領域として前頭前野領域の脳活動を解析していく予定である。 【まとめ】 1.巧緻性課題中に声かけを行った際の学習効果を検討した。 2.その結果、課題の繰り返しと声かけによる効果が認められた。 3.声かけによる動機づけはパフォーマンスの向上に繋がり、リハビリテーションにおける声かけの有効性が示唆された。

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