保存療法を行った80歳以上の大腿骨近位部骨折の生命予後に影響する因子の検討

DOI
  • 本庄 正博
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 村瀬 政信
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 三次 園子
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 樋口 恵
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 深谷 圭馬
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 飯田 泰久
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 堂下 晶子
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 谷 みか
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科
  • 倉上 啓介
    医療法人清水会相生山病院 リハビリテーション科

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抄録

【はじめに】<BR>  大腿骨近位部骨折に対しては,一般的に手術療法が行われる.しかし,本人または家族が手術を希望しない場合や,合併症により手術が行えない場合には保存療法となる.われわれは過去の報告において,保存療法を行った大腿骨近位部骨折の機能予後に関する検討を行った.今回,保存療法を行った80歳以上の大腿骨近位部骨折の生命予後に影響する因子を検討したので報告する.<BR> 【対象】<BR>  2002年9月~2010年10月の間に,受傷後1ヶ月以内に保存療法目的で入院した80歳以上の大腿骨近位部骨折47例.内訳は女性42例,男性5例,頚部骨折30例,転子部骨折17例.年齢は89±5歳であった.<BR> 【方法】<BR> 1.生存分析<BR>  対象を,認知症の有無(骨折認識あり,骨折認識なし),骨折部位(頚部骨折,転子部骨折),受傷前の歩行能力(歩行可能,歩行不可能),受傷前所在(自宅,病院または施設)で群分けし,受傷日を起点にしたKaplan-Meier法とLogrank testにより各群の生存率に差があるかを検討した.有意水準は5%未満とした.<BR> 2.死亡原因の調査<BR>  死亡例については死亡原因を調査した.<BR> 3.生存退院群と死亡退院群との比較<BR>  当院退院時に生存していた33例を生存退院群,入院中に死亡し退院となった14例を死亡退院群に群分けし,各群の受傷時年齢および受傷後直近の血液検査から得られる情報(アルブミン,白血球数,血色素,eGFR,CRP),入院日数を調査し,比較検討した.統計処理はStudent’s t test,Welch’s t test,Mann-Whitney’s U testを用いた.有意水準は5%未満とした.<BR> 【結果】<BR> 1.生存分析<BR>  Logrank testの結果,認知症の有無,骨折部位,受傷前所在において生存率に有意差が認められた.受傷後1年生存率は骨折認識あり群83%,骨折認識なし群49%,頚部骨折群64%,転子部骨折群46%,自宅群76%,病院または施設群53%であった.受傷前の歩行能力においては有意差が認められず,受傷後1年生存率は歩行可能群61%,歩行不可能群52%であった.<BR> 2.死亡原因の調査<BR>  対象のうち,死亡が確認できた27例(死亡退院群14例を含む)の死亡原因の内訳は老衰8例,肺炎7例,慢性心不全の急性増悪5例,播種性血管内凝固症候群2例,急性呼吸不全1例,肺がん1例,肺血栓塞栓症1例,不明2例であった.<BR> 3.生存退院群と死亡退院群との比較<BR>  生存退院群,死亡退院群の比較では,eGFR(生存退院群68.3±27.9mL/分/1.73m2,死亡退院群48.3±27.1mL/分/1.73m2),入院日数(生存退院群135±88日,死亡退院群52±40日)において有意差が認められた.年齢,アルブミン,白血球数,血色素,CRPにおいては生存退院群と死亡退院群との間に有意差が認められなかった.<BR> 【考察】<BR>  今回の結果から,骨折の認識がないほどの認知症がある場合,生命予後が不良であった.これは,認知症により活動性が低下し,廃用症候群が進行することなどが考えられる.また,頚部骨折に比べ転子部骨折の生命予後が不良であったことについて,転子部骨折では頚部骨折に比べ疼痛が強く,活動性が低下することから予後不良を招いたことが考えられる.受傷前所在では病院または施設群が自宅群に比べ予後不良であったが,これは受傷前の健康状態やADL能力の差が影響していると考えられる.また,死亡原因の調査からは,老衰,肺炎,慢性心不全の急性増悪が多くみられた.<BR>  次に,生存退院群と死亡退院群との比較では,eGFR,入院日数に有意差が認められた.死亡原因の調査において,腎不全は直接死因としては挙がらなかったが,慢性心不全と腎機能低下があいまって,慢性心不全の増悪に繋がった可能性が考えられた.また,死亡退院群の入院日数が有意に短いことから,入院中に死亡する症例は入院時点でリスクを抱えており,入院後早期に死亡となることが示唆された.<BR>  高齢者大腿骨近位部骨折保存療法例に対するリハビリテーションでは,骨癒合し得るか否かや,疼痛の程度などにより離床時期の調整はしていくが,過度の安静は避け,可能な限り積極的に離床を進めることが,廃用症候群の予防およびADLの改善に繋がると考える.しかし,同時に保存療法例には受傷時点で手術が困難なほどに全身状態が低下している場合もあり,リハビリテーションを行うにあたり,そのような症例のリスク管理には十分注意する必要があるだろう.今回,死亡退院群はeGFRが低値であることがわかった.このことからeGFRが低い場合は主治医や病棟職員とも十分連携をとり,運動負荷量の設定等のリスク管理を行った上で,できる限り廃用症候群を予防していく必要があると考える.

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