脳卒中片麻痺者に対する椅子座位後方ペダリング運動が歩行に及ぼす影響
書誌事項
- タイトル別名
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- ―シングルケースデザインによる検討―
説明
【目的】自転車エルゴメータを用いたペダリング運動と歩行は筋活動パターンが類似していることから、ペダリング運動は歩行様の両下肢の筋活動パターンを再学習するのに有効な手段であるとされている。しかし、脳卒中片麻痺者の歩容に応じたペダリング方向、座面の位置などの設定を検討した報告は少ない。今回、歩行立脚期における麻痺側股関節伸展が不十分な脳卒中片麻痺者に対して、ペダリング運動時の下肢伸展相の範囲が長くなるような椅子座位での後方ペダリング運動の設定を行い、シングルケースデザインにて前方ペダリング運動と後方ペダリング運動のどちらが歩行能力改善に有効であるか検討したので報告する。<BR><BR>【方法】対象は、約2年半前に脳梗塞右片麻痺を呈した60歳代男性。麻痺側下肢Brunnstrom Recovery StageはStage 4、歩行は立脚期における麻痺側股関節伸展が不十分であったが、屋内独歩自立レベルであった。研究デザインはシングルケースデザインのBAB型デザインを用いB期を操作導入期として15分間の椅子座位後方ペダリング運動(以下、後方ペダリング)、A期を基礎水準期として15分間の椅子座位前方ペダリング運動(以下、前方ペダリング)とした。自転車エルゴメータは、キャットアイ社製のキャットアイ・エルゴサイザー EC-3200を使用し、前方および後方ペダリングにおけるクランク回転中心からの座面までの高さ、大転子までの距離、股関節最大屈曲角度が一定になるように設定した。またペダルの中心軸上に第二中足骨頭を合わせた。運動強度は至適運動強度として、各期ともにRating of Perceived Exertion(RPE)13~15とした。前方および後方ペダリングにおける下肢伸展相の範囲は、デジタルビデオカメラにて撮影しImageJ(National Institutes of Health製)を用い測定した。また各ペダリング運動後に歩行への影響を検討するために10m最大歩行を行い、最大歩行速度、歩行率、重複歩距離を算出した。効果判定は各期の変化をグラフ化しCeleration lineを描きSlopeを求め原則目視にて判定した。また分析を補完する目的で二項検定を用いた。なお、対象には研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】下肢伸展相の範囲は前方ペダリングでは160.1度、後方ペダリングでは187.1度であった。B1、A、B2各期の最大歩行速度のSlopeは0.49、-0.92、0.10で二項検定ではB1期に対しA期で有意に減少を認め(p<0.001)、A期に対しB2期で有意に増加を認めた(p<0.001)。歩行率のSlopeは0.52、-1.19、0.00で二項検定ではB1期とA期では有意差を認めず、A期に対しB2期で有意に増加を認めた(p<0.001)。重複歩距離のSlopeは0.00、-0.01、0.01で二項検定ではB1期に対しA期で有意に減少を認め(p<0.001)、A期に対しB2期で有意に増加を認めた(p<0.001)。<BR><BR>【考察】下肢伸展相の範囲はクランクの移動範囲とし、股関節最大屈曲位から膝関節最大伸展位までのクランクの移動範囲を比較したところ、後方ペダリングにおいて下肢伸展相の範囲が長かった。また後方ペダリングにより最大歩行速度、歩行率、重複歩距離が改善した。これらから後方ペダリングを行うことで下肢伸展トルクが高まり歩行能力が改善した可能性が考えられる。大森ら(2001)は下肢伸展トルクが大きいほど歩行速度が速いと報告しており、下肢伸展相の範囲の違いが後方ペダリングにおいて歩行能力に改善を認めた要因ではないかと考えた。本症例は歩行立脚期における麻痺側股関節伸展が不十分であったことから、後方ペダリングにより下肢伸展トルクが高まり歩行能力が改善したと考えた。新野ら(2007)は脳卒中片麻痺者に対しStrengthErgo(三菱電機エンジニアリング社製)を用い前方および後方ペダリングを行った結果、運動麻痺の重症度によりペダリング方向を変えることで効果を上げられるのではないかと報告している。また運動麻痺の重症度により結果が異なった要因はペダリング方向による筋活動量の違いではないかと述べている。今回、我々は歩容の問題点からペダリング運動時の下肢伸展相の範囲に着目して設定を行い、新野らと同様の結果を得た。つまり、運動麻痺の重症度から設定するだけでなく、歩容から設定を判断することも必要であることが示唆された。今後は、自転車エルゴメータを用いた椅子座位でのペダリング運動について筋電図、電気角度計などを用いさらに検討していきたいと考える。<BR><BR>【まとめ】ペダリング方向の違いによる歩行能力への影響を検討した。結果として下肢伸展相の長い後方ペダリングが前方ペダリングに比べて歩行能力の改善を認めた。今回の結果から、運動麻痺の重症度だけでなく歩容からペダリング運動の設定を判断することも必要であることが示唆された。
収録刊行物
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- 東海北陸理学療法学術大会誌
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東海北陸理学療法学術大会誌 27 (0), 132-132, 2011
東海北陸理学療法学術大会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205666412544
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- NII論文ID
- 130007005711
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可