顔面神経麻痺後、ボツリヌス毒素療法を施行した症例に対する理学療法 ~自主練習指導の併用~

DOI
  • 川畑 真司
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理学療法課
  • 井舟 正秀
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理学療法課
  • 久保 佳子
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理学療法課
  • 田口 裕介
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理学療法課
  • 細田 千尋
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理学療法課
  • 小塚 寛也
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理学療法課
  • 岡田 俊
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理学療法課
  • 川北 慎一郎
    社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 リハビリテーション科

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抄録

【はじめに】 顔面神経麻痺の後遺症の中で、最も悩まされるものは拘縮と病的共同運動とされている。このような、症例に対してボツリヌス毒素(以下BTX)療法とリハビリテーションを併用した報告は少ない。今回、BTX療法と自主練習指導を併用した結果、病的共同運動を抑制した神経筋再教育を行う事ができた症例を経験したので報告する。尚、本症例に対し学術目的にて報告を行う事を説明し、同意を得ている。<br>【患者情報】 60歳代男性、ADL:自立、職業:大工<br> 診断名:左顔面神経麻痺、既往歴:胃癌<br> 現病歴:約1年前、末梢性顔面神経麻痺発症。他院神経内科を受診し、ステロイド内服、数回リハビリテーションを行った。その後、内服のみの処方となった。X-7日、病的共同運動が顕著であり、当院受診。X日、BTX療法施行、眼輪筋4箇所1.25単位、頬筋2.5単位、口輪筋2.5単位投与された。X+7日、理学療法開始。<br>【評価結果】 X-7日、主訴は物を食べると、眼が閉じ涙が出る。Sunnybrook法:76-15-14=47点。病的運動が顕著で、口輪筋収縮時に眼輪筋も収縮していた。X+7日、Sunnybrook法:68-15-4=49点。主訴は眼が閉じにくいとの変化があった。X+14日、Sunnybrook法:52-15-5=32点。X+62日、Sunnybrook法:68-15-6=47点。X+86日、Sunnybrook法:72-15-6=51点。<br>【治療】 BTX療法前に医師より治療効果、および自主練習の重要性が説明された。自主練習は正確な運動を行う為パンフレットを作成し、眼輪筋、頬筋、口輪筋の他に、頬骨筋、口角挙筋、笑筋のマッサージ、鏡を使用した視覚フィードバックによる随意運動を指導した。また、X+7日より1回/週で外来通院を2回実施。その後、正確な自主練習を習得したので1回/2週に変更した。随意運動は、X+14日以降より積極的に行うように指導した。<br>【考察】 慢性期に拘縮し病的共同運動が合併している顔面筋に対しては、リハビリテーションによる改善が難しいとされている。本症例では発症から1年が経過しており、病的共同運動が顕著であった為、BTX療法により意図的に顔面神経麻痺を発症させ治療を行った。最終評価より病的共同運動の増悪が見られず、随意運動が向上している事から適切な神経筋再教育が成されたと考えられる。<br> BTX療法は1~2週後より著明に作用するとされている。本症例では指標としてSunnybrook法を用い、随意運動が下限に達したX+14日以降から積極的に介入した事で、病的共同運動の惹起が予防されたと考える。また、病的共同運動を抑制するには粗大な運動の回避、フィードバックを用いた筋収縮が重要であり、これらを自主練習として取り入れた事で前述の結果が得られたと考える。<br> また、本症例では正確な自主練習を指導する為、パンフレットを作成した事、医師と連携し自主練習の重要性を説明し習慣化が成された事も重要であったと考える。<br>【おわりに】 慢性期の顔面神経麻痺に対し、BTX療法と自主練習を併用することで、病的共同運動を抑制した神経筋再教育を行う事ができた。また、介入時期についてSunnybrook法を用いた事も有用であった。

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