水中歩行が健常者の筋緊張と動的バランスに及ぼす即時効果

DOI
  • 高木 亮輔
    JA静岡厚生連 リハビリテーション中伊豆温泉病院 理学療法科
  • 黒澤 和生
    国際医療福祉大学 保健医療学部 理学療法学科
  • 原 美咲
    JA静岡厚生連 リハビリテーション中伊豆温泉病院 理学療法科
  • 尾田 健太
    JA静岡厚生連 リハビリテーション中伊豆温泉病院 理学療法科
  • 佐藤 陽介
    JA静岡厚生連 リハビリテーション中伊豆温泉病院 理学療法科
  • 磯 毅彦
    JA静岡厚生連 リハビリテーション中伊豆温泉病院 理学療法科

書誌事項

タイトル別名
  • ―筋硬度計とFRTを用いて―

抄録

【目的】  中高齢者に対する健康増進や転倒予防のために様々な運動が推奨されており,安全かつ効果的な運動を提供する必要がある.水中運動は水の特性により安全にダイナミックな運動が可能であることからバランス訓練としても注目されている.これまで,水中歩行がバランス能力を向上させることは数多く報告されており,1度の水中歩行でも効果があるとされている.しかし,その要因について検討した報告は少ない.水中歩行がバランス能力に影響を与える要因の1つに筋緊張の変化が考えられる.今回,健常者を対象に陸上歩行と比較して水中歩行が筋緊張と動的バランスに与える影響について研究し,知見を得たので報告する.<BR> 尚,本研究に際し,所属施設における倫理委員会の許可を得た.被験者には書面と口頭にて研究の目的と方法を説明し,同意を得た上で研究を行った.<BR> 【方法】  対象は,若年健常男性24名(平均年齢26.8±4.7歳,平均身長172.1±5.5cm,平均体重67.7±10.7kg)である.運動課題として,20分間の陸上および水中歩行の両方を実施し,それぞれの歩行前後で筋緊張と動的バランスの検査を実施した.それぞれの歩行速度は快適速度とすることで運動強度を低く設定し,さらにBorgスケールと脈拍を定期的に計測し,両歩行の運動強度に差が生じないよう配慮した.水中歩行は当院水治療法室(気温25℃,水温35℃,水深は剣状突起レベルに設定)で実施した.筋緊張の検査として筋硬度の測定を,筋硬度計(TRY-ALL社製,NEUTONE TDM-NA1)を用いて行った.測定部位は,姿勢保持と歩行に関与する表在と深部の体幹や下肢の筋として,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腰腸肋筋,多裂筋,大腿直筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋,ヒラメ筋,足底腱膜の11か所とし,筋腹の中央部を測定した.測定姿勢は抗重力位による余分な筋緊張が入らない安静臥位とし,各部位3回測定し平均値を求めた.動的バランスの検査としてFunctional Reach Test(以下,FRT)を行った.方法は,練習を1回行った後,2回測定し平均値を求めた.なお,陸上歩行と水中歩行は1週間以上時間を空けて実施した.統計処理は,運動前後におけるFR距離,筋硬度に対し,対応のあるT検定(危険率5%未満)を用いた.<BR> 【結果】  FR距離において,陸上歩行(運動前19.4±3.4cm,運動後19.8±3.1cm)は有意差を認めず,水中歩行(運動前20.0±4.1cm,運動後21.1±3.6cm,p<0.01)は有意差を認めた.各筋の筋硬度において,陸上歩行では運動前後で有意差を認めなかったが,水中歩行では内腹斜筋(運動前10.0±3.8,運動後13.1±3.7,p<0.001),多裂筋(運動前10.4±4.1,運動後11.8±4.0,p<0.01),大腿二頭筋(運動前20.8±3.2,運動後22.4±3.3,p<0.001)で有意差を認めた.さらに,水中歩行の結果から内腹斜筋と多裂筋の両方の筋硬度が向上した被験者をA群,それ以外の被験者をB群とし,運動前後におけるFR距離の変化量を比較検討した.結果,A群(n=14)は1.74±1.87cm,B群(n=10)は0.27±1.26cmとなり,対応のないT検定(危険率5%未満)を用いて比較検討したところ,2群間で有意差を認めた(p<0.05).<BR> 【考察】  本研究も先行研究と同様,水中歩行後にFR距離の増大を認め,水中歩行が動的バランスを向上させることが示された.筋硬度の変化として,水中歩行後に大腿二頭筋,内腹斜筋,多裂筋が有意に増大した.陸上歩行と比較して水中歩行では,大腿二頭筋と体幹深部筋群の緊張が増大することが示唆される.先行研究より,水中歩行では体を水の抵抗に打ち勝って前方へ推進させるために股関節伸展に作用する大腿二頭筋の筋活動が陸上よりも水中で高いこと,筋活動が高まると動脈血流量の増大に伴い筋硬度も増大することが示されている.また,体幹深部筋群は,推進に伴う水の抵抗を受け続けることや下肢の振り出しを安定させるために持続的な活動を強いられることで,筋硬度は有意に増大したと考えられる.このことは,運動強度を低く設定しており,疲労による高緊張とは考えにくく,運動を行うにあたり適度な緊張に高められたと考えられる.ゆえに,水中歩行によって動的バランスが向上する要因の1つとして,体幹深部筋群の緊張増大に伴う下部体幹の安定性向上が関与すると考えられる.さらに,A群はB群と比較してFR距離が有意に増大したことから,動的バランスがより向上するには内腹斜筋と多裂筋の両方の緊張の増大が関与することが示唆された.<BR> 【まとめ】  本研究によって,水中歩行による動的バランスの向上に体幹の筋緊張の変化が関与していることが示された.今後,歩行様式など細かな設定を考えることで体幹深部筋群の緊張増大に効果的な運動プログラムを考案,検証していくことで安全なバランス訓練として中高齢者に提供していきたい.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205666770176
  • NII論文ID
    130007005866
  • DOI
    10.11529/thpt.27.0.185.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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