右恥骨骨折・仙腸関節亜脱臼に対して、テーピング療法が有効であった一症例

この論文をさがす

説明

【はじめに】今回、落馬により右恥骨骨折と右仙腸関節亜脱臼が生じた症例に対して、皮膚の動きの誘導を目的としたテーピング療法を施行することによって、疼痛の軽減と歩行の改善が得られたので、若干の考察を加え報告する。尚、症例には本報告の趣旨を説明し同意を得ている。 【症例紹介】症例は60歳代女性である。平成21年9月に趣味である乗馬中に落馬し、他院にて両恥骨骨折・右坐骨骨折・右仙骨不全骨折と診断され、保存加療していた。受傷後4週目より疼痛に応じた荷重歩行を開始しており、同年10月に当院へ転院された。当院でも保存的加療で理学療法を行っていたが、1年以上経過しても症状改善せず、平成22年11月に精査にて右恥骨骨折・右仙腸関節亜脱臼と診断され、手術となった。今回は右恥骨骨折に対して骨掻爬術・右股関節内転筋切離術施行後から右仙腸関節固定術前までの約1ヶ月の期間に行ったテーピング療法の効果について報告する。  理学所見としては、病棟内ADLは歩行器を使用して自立レベル。歩行器歩行時、右立脚中期にかけて骨盤右側方偏移と体幹右側屈がみられ、荷重痛が出現した(VASで8)。右SLR・股関節内転自動運動は疼痛のため困難であった。MMTは右腸腰筋・中殿筋・大殿筋で2レベルであり、運動時痛が出現した(VASで7)。安静時痛は腰部から両殿部にかけてみられた(VASで6)。歩行器歩行での10m歩行時間は25.0秒であった。 【方法】キネシオロジテープ(株式会社ドーム製)を使用し、歩行時、右立脚中期にかけての骨盤右側方偏移に対して、皮膚をやや伸張するように大転子から頭側・尾側・腹側・背側の4方向へのテーピングを施行した。また腰部から殿部の疼痛軽減目的に大腿前面に対して頭側から尾側方向へ、大腿後面に対して尾側から頭側へ、大腿外側に対して尾側から頭側方向へ、大腿内側に対して頭側から尾側方向へ、腰部に対して左腸骨後上方から右広背筋の走行へテーピングを施行した。テーピングを施行する前にあらかじめ徒手的に皮膚を動かして疼痛の誘発と軽減を行い、治療方向を決定した。 【結果】安静時痛はVASで3、荷重時痛はVASで5まで軽減した。歩行時は右立脚期の骨盤右偏移が軽減し、右下肢での荷重が見られるようになった。それに伴い、右立脚中期に見られた体幹右側屈が軽減した。歩行レベルとしては20mほどT字杖で歩行可能レベルまで改善し、10mほどは独歩可能となった。歩行器歩行での10m歩行時間は19.0秒に改善した。 【考察】仙腸関節の機能としては脊柱からの荷重の伝達と骨盤輪への可動性付与である。そのため、仙腸関節は強固な安定性と小さな可動性を有している。本症例では、右仙腸関節亜脱臼により仙腸関節の機能不全が生じ、疼痛と歩行時の骨盤不安定性が生じていると考えられる。解剖学的に仙腸関節を直接的に制御する筋はなく、随意的に制御することは難しい。しかし、本症例ではテーピング療法により運動の制御と疼痛の軽減を図ることができた。これは、皮膚の伸張感により運動の制御を、皮膚にたわみを作ることにより疼痛の軽減を図れたものと考えられる。特に大転子部へのテーピングにより歩行時の立脚中期における骨盤右側方偏移を軽減し、腰部のテーピングによりアウターユニットの広背筋に伸張を加えることにより仙腸関節の安定化を行えたものと考える。  今回、テーピングを使用することにより、皮膚を介してのアプローチにより運動の制御と疼痛の軽減が行えた。しかし、本症例ではテーピング療法の効果として即時的な効果は得られたが、持続的な効果は乏しいものであった。今後はテーピング療法と運動療法を組み合わせてのアプローチについて検討していく必要がある。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ