大動脈術後に脊髄梗塞を発症した2症例

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(はじめに)脊髄梗塞は脳梗塞と比較して著しく少なく,原因疾患には全身的動脈硬化,大動脈手術,ショックなどが上げられる.大動脈術後に脊髄梗塞を発症した2症例を経験したので報告する.<BR>(症例1)70代 男性.解離性大動脈瘤でステントグラフト術が施行された.翌日に右下肢麻痺を自覚し,後脊髄動脈症候群と診断された.Th12以下に感覚障害と不全麻痺(改良Frankel分類C1)を認めた.17病日に車いすで出療,32病日に四つ這い移動,歩行器歩行練習を開始した.80病日,杖歩行が安定しADL自立.90病日,自宅退院となった.<BR>(症例2)70代 女性.胸腹部大動脈瘤で人工血管置換術が施行された.1病日より疼痛と運動麻痺を呈し前脊髄動脈症候群の診断を受けた.L1以下の不全麻痺,表在感覚鈍麻とシビレ(改良Frankel分類B2)を認めた.23病日に車いすで出療,62病日に平行棒内立位を開始した.90病日には車いすでのADLは自立した.徐々に筋力は回復したが歩行に直結する回復は認めず,術後1年3ヵ月で自宅退院となった.<BR>(考察)大動脈術後に起こった脊髄障害は,大動脈手術によるクランプ時間の長さ,術中の低血圧による脊髄虚血,大動脈からの脊髄血管の塞栓症,内腸骨動脈からの側副血行の有無などの要素によって障害の程度は多彩である.後脊髄動脈症候群では深部感覚障害が問題となるが,病変が後側索まで波及すると運動麻痺が出現する.前脊髄動脈症候群では脊髄病変部以下の運動麻痺と解離性感覚障害が出現するが,体幹下肢の運動障害は時間経過とともに回復傾向となる症例も多い.しかし今回担当した症例は重度の麻痺に加え高齢なこともあり発症3ヶ月後の回復は歩行に寄与することが困難であった.

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