短腓骨筋と小指外転筋の停止部の形態と機能に関する肉眼解剖学的検討

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抄録

【はじめに】 理学療法の臨床上,足関節の不安定性や高齢者における側方へのバランス反応の改善において,長腓骨筋の機能は重要になる.川野は,長腓骨筋の機能を発揮するためには,短腓骨筋(以下PB)の収縮により第5中足骨を近位に引き付けることが重要であると述べている.一方,大工谷は,小指外転筋(以下ADM)の短縮によって長腓骨筋が足根骨に押しつけられ,長腓骨筋の緊張が増強すると述べている.このようにPBおよびADMは長腓骨筋の機能に影響を及ぼすことが報告されているが,そのメカニズムは十分に検討されていない.今回,解剖実習用遺体のPBおよびADMの形態を肉眼解剖学的に観察し,それらの機能を考察したので報告する. 【対象】 平成20年度愛知医科大学解剖セミナーに供された解剖実習用遺体5体8足である. 【方法】 下腿遠位部から足部にかけて剥皮,皮下組織を除去し,PB,ADM,腓側腱膜(ADMの腱膜)を剖出した.PBおよび腓側腱膜が第5中足骨粗面に停止する部位の形態を観察した. 【結果】 PBは,第5中足骨粗面に停止するだけではなく,その腱線維束が第5中足骨粗面の近位部で腓側腱膜と結合している例が6例存在した.ADMは,踵骨外側突起および腓側腱膜から起始し,第5基節骨に停止していた.腓側腱膜は,ADMとともに足底を小指基節骨に向かい走行する.しかし,全例において腱線維束の一部は,第5中足骨粗面の近位部で足底から外側に向かい,第5中足骨粗面に‘回り込む’ように付着していた. 【考察】 成書によると,PBは第5中足骨粗面に停止し,足関節の底屈と足部の外転・回内に作用する.ADMは第5基節骨に停止し,小指の外転と屈曲に作用する.本研究の結果, ADMは腓側腱膜から起始し腓側腱膜の一部が第5中足骨粗面へ‘回り込む’ように停止するため,小指の外転作用だけでなく,第5中足骨の回外作用を持つことが示唆された.すなわち,PBは第5中足骨の回内作用を有し,ADMは第5中足骨の回外作用を有すると考えられた.また,PBの腱線維束が第5中足骨粗面の近位部で腓側腱膜と結合している例が観察された.腱線維の走行は,加わった張力によって決定される.したがって,PBと腓側腱膜(ADMの腱膜)の結合は,両筋が共同で足部外側縦アーチに加わる荷重負荷に抗して作用した結果と考えられた.すなわち,両筋の停止部の形態から,両筋が同時に機能することで第5中足骨を近位に引き付け,外側縦アーチの剛性が向上すると考えられた.さらに,外側縦アーチの剛性の向上によって,長腓骨筋の機能が発揮され易くなると考えられた.

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