顎関節症に対する理学療法が著効を示した一症例

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抄録

【はじめに】顎関節は四肢や体幹の関節と同様、滑膜性連結の運動器である。しかし我が国では整形外科、口腔外科、歯科、いずれの領域においても積極的に顎関節の治療に理学療法(以下、PTと略す)が介入しているとは言えない。今回、開口制限と開口時の顎関節痛を呈した外来患者に対してマニュアルセラピーを中心に実施し、著効を示した一症例について報告する。 【症例紹介】38歳男性。大工。平成19年4月初旬より開口時の左顎関節痛が出現。徐々に摂食や会話の際の開口制限と疼痛が増強し、左側の偏頭痛も出現するようになった。同年5月1日に初診にて左顎関節症と診断された。 【初期評価】初診時レントゲン所見で左顎関節の適合不良を認めた。問診より左側臥位で就寝する習慣があること、年明けから禁煙を始めガムを噛む習慣ができたこと、左側での噛み癖があることが分かった。顔貌の非対称を認め、開口量は3.0cmであった。下顎側方移動は右側0.5cm、左側0.8cmで、右側方移動の際に左顎関節周辺に強い疼痛を訴えた。両側内・外側翼突筋に圧痛を認めた。 【治療及び経過】平成19年5月1日、初回PT実施。左側頭筋に対して筋膜リリース、両側内、外側翼突筋に対してストレイン・カウンターストレインを施行。開口量が5.0cmに改善したところで左顎関節の離解を徒手にて施行。ホームプログラムとして開口自動運動の指導、姿勢指導、ADL指導を行った。同年5月12日、2回目のPT実施。顔貌の非対称はほぼ改善していた。治療前の開口量は4.0cmで、開口時の顎関節痛は軽減し、両側内・外側翼突筋の圧痛は消失していた。治療終了時、開口量は5.0cmとなり、開口時痛はほぼ消失していた。同年6月2日、3回目のPT実施。開口量は維持されており、開口時痛も消失していたため、ホームプログラムの再指導を行い、PT終了とした。 【考察及びまとめ】今回、マニュアルセラピーと患者指導を中心に行い、3回のPTで治療を終了することができた。これは患者のホームプログラムの励行によって治療効果が維持できたこと、症状の発現から早期に治療を開始できたことが大きな要因であると考えられる。外来患者に対しては、クリニカルリーズニングよって抽出した問題点から、適切な患者指導をすることが非常に重要である。また顎関節症は心因的な要素に大きく影響を受けると考えられており、患者のコンプライアンスが良かったこと、問題が複雑化する前にアプローチできたことは奏功した一因であると考えられる。本症例のように、関節及び軟部組織に対するマニュアルセラピーや各種のホームプログラムの指導によって、PTは顎関節症患者の治療に多大に貢献できるものと考える。今後は定量化による顎関節機能の評価やPTの効果判定も行っていきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205674563968
  • NII論文ID
    130007007369
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2007.0.43.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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