立位での踵部荷重時における腹斜筋群の筋活動について

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抄録

【目的】我々は先行研究にて腹斜筋群が走行している部位に複数の電極を配置し、直立位における各部位の筋活動について検討した。この時両腸骨稜を結ぶ線より下部の腹斜筋群の筋活動に増加傾向を認め(内腹斜筋の横方向線維の活動を反映)、これは両下肢において両大腿骨頭が両臼蓋を介して寛骨を支持する事から、仙腸関節に生じる剪断力を防ぐ作用であると報告した。臨床において我々は直立位から踵部への荷重誘導を行う事で、自律的な身体の後方傾斜を制御すると考えられる腹斜筋群に対してアプローチを行っているが、その筋電図学的指標となる報告は少ない。そこで今回、立位での踵部荷重に伴う腹斜筋群の筋活動についてその指標となる知見を得る事を目的に検討を実施したので報告する。 【方法】健常男性7名(平均年齢30.3歳)に足幅を肩幅と同様とした立位を保持させ、筋電計テレメトリーMQ-8を用いて腹斜筋群の筋電図を測定した。腹斜筋群の電極はNgの報告から一側の外腹斜筋単独部位、内外腹斜筋重層部位、内腹斜筋単独部位へ双極導出法にて配置した。さらに内腹斜筋単独部位の直上より肋骨下端にかけて6チャンネル、内外腹斜筋重層部位直下から骨盤にかけて3チャンネル、大転子直上の腸骨稜の上部から肋骨下端にかけて3チャンネルの電極を配置した。そして測定時間は5秒間で3回測定し、その平均値を求めた。つぎに両前足部が極わずかに離床した立位(以下踵部荷重立位)を保持させ、各部位の筋電図を測定した。この時、踵部荷重に伴う自律的な身体の後方傾斜は許可し、過剰な股関節屈曲に伴う体幹の前傾が生じない事を確認した。 【説明と同意】本実験ではヘルシンキ宣言の助言・基本原則及び追加原則を鑑み、予め説明した本実験の概要と侵襲、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて同意を得た被検者を対象とした。 【結果】踵部荷重立位における腹斜筋群各部位の筋電図積分値は、直立位と比較して有意な増加を認めた(p<0.05)。 【考察】踵部荷重立位においては身体が後方へ傾斜しようとする働きが生じると考えられる。これにより胸腰椎の伸展方向への働きと共に、胸郭と骨盤間は離れようとする働きが生じると考える。そしてその制御には、胸郭と骨盤間を縦走する腹直筋が関与すると考えられる。鈴木らは矢状面での骨盤に対する胸郭の制御には腹直筋が関与し、内腹斜筋の横方向線維は腹直筋鞘を側方に引く事で腹直筋の活動を安定させると述べている。今回の結果から、内腹斜筋の横方向線維の活動を反映すると考えられる両腸骨稜を結ぶ線より下部の腹斜筋群重層部位については、腹直筋の活動の安定化に関与したと考える。また両腸骨稜を結ぶ線より上部の腹斜筋群重層部位については、踵部への荷重により身体が後方へ傾斜しようとする働きに伴う胸郭と骨盤が離れようとする働きに対し、腹直筋と共に体幹の屈曲作用にて関与したと考える。 【理学療法研究としての意義】臨床上、踵部荷重立位時の腹斜筋群への評価・治療時には以下の作用を考慮していく事が必要となる。1)内腹斜筋の横方向線維の活動を反映すると考えられる両腸骨稜を結ぶ線より下部の腹斜筋群は、骨盤と胸郭間が離れようとする働きの制御に関与する腹直筋の活動を安定させる作用がある。2)両腸骨稜を結ぶ線より上部の腹斜筋群については、骨盤と胸郭間が離れようとする働きに対して体幹屈曲作用にてその制御に関与する。今後は同課題における腰背筋群の活動を明確にし、臨床の一指標として用いていけるように検討していく。

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  • CRID
    1390001205674597120
  • NII論文ID
    130007007425
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2011.0.13.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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