運動療法と自助具の導入によりADLが改善した純粋無動症の一症例

DOI
  • 森木 貴司
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部
  • 小池 有美
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部
  • 上西 啓裕
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部
  • 田島 文博 (MD)
    和歌山県立医科大学附属病院 リハビリテーション部

Description

【はじめに】 純粋無動症はパーキンソン症候群を伴う関連疾患で、進行性核上性麻痺の一病型と考えられ、すくみ現象を主症状とする。すくみ現象は、日常生活上はすくみ足として現れ、しばしば転倒の原因となっている。したがって、すくみ足を改善することが期待され、しばしば理学療法が処方される。すくみ足は、眼前の障害物を意識すると改善する特質(矛盾性運動、kinesie paradoxale)を活用した方法が多く報告されている。一方、パーキンソン病に対して、下肢筋力増強により歩行が改善すると報告されているが、純粋無動症に対しては臨床的に検討されていない。そこで、今回短期入院された純粋無動症患者に対し、L字型杖の活用と環境の整備、そして下肢筋力強化の併用により、歩行改善がみられたので報告する。また、発表にあたり、文書による十分なインフォームドコンセントを行い、同意を得た。<BR> 【症例紹介】 75歳男性。H15純粋無動症、パーキンソン症候群と診断された。H22に入り立ち上がり困難、すくみ足が強く出現し歩行も困難になりH22.6初旬当院リハビリ科に短期リハビリ目的で入院された。入院時現症は、意識清明、見当識良好。仮面様顔貌、小字症がみられた。脳神経上に問題なく、筋緊張は亢進し固縮がみられた。企図振戦があり、協調性は上下肢でやや拙劣さがみられた。立位姿勢は、典型的な前傾姿勢を呈し、頸部・体幹・肩関節・股関節でROM制限がみられた。MMTは両上下肢5レベル。FIMは85点。座位・立位保持は可能だが、セルフケアはほとんど中等度介助を要し、歩行はすくみ足が強く前方への転倒の危険性が極めて高く困難な状態であった。また、目標物の手前ですくみ足が出現し前方へ手をついて倒れるような場面が多くみられた。社会保障に関しては、身体障害者手帳2級、介護保険要介護度5という状況であり、入院前はデイサービスと訪問リハビリを週に3回ずつ利用されていた。<BR> 【経過】 リハビリ開始当初は運動機能改善を目的に集中的に運動療法を行った。具体的なプログラムとしては、ROM訓練、歩行、階段昇降、自転車・ハンドエルゴメータ、トレッドミル、床上動作とした。リハビリ開始から3日後にはすくみ足も軽減し独歩も監視で可能になった。1週間後のカンファレンスでは、入院中の目標を実用的なすくみ足改善手段の決定、退院後の機能維持のため入院中に自主トレーニングの習得、他機関医療者への情報提供とした。自主トレーニングメニューは主に頸部・体幹・上下肢に対する柔軟性改善目的の体操と筋力増強訓練とした。環境設定として、テープによるマーキング、メトロノーム・声かけによるリズム付けを行うが実用的な効果はなかった。著明な改善がみられたのはレーザーポインターによる目印付け、L字型杖であった。最終的にはすくみ足改善手段としてL字型杖使用と目標物付近のテープによるマーキングとした。これにより、すくみ足が軽減し歩行改善がみられた。入院期間は3週間であったが、FIMも107点と改善し、セルフケアも監視か軽介助程度、歩行はL字型杖使用により監視で行えるようになった。また、本人もすくみ足改善を実感されていた。<BR> 【考察】 今回、すくみ足に対しL字型杖の活用と環境の整備、そして下肢筋力強化の併用により、歩行改善がみられた。テープによるマーキングや声かけと比べ改善がみられた理由として、状況に合わせて自由に目印にすることができ、場所の限定がされず実用的な手段として選択できたと考えられる。また、環境設定と合わせて運動療法による機能改善もADL改善に関与していると考えられる。そのため、積極的な運動療法も合わせて行う必要がある。短期入院ではあったが著明にADLは改善した。しかし、一時的な改善とならないよう退院後は進行性疾患ではあるができるだけ機能維持をはかっていきたい。そのためには他機関への情報提供と在宅プログラムをしっかりやっていく必要があると考える。<BR> 【本発表の意義】 パーキンソン病では、すくみ足に対する運動療法は多く報告されている。しかし、純粋無動症に対しては実際に患者で深く検討する機会は少なく、対策として提案されている動作指導には十分なエビデンスがあるとは言い難い。臨床現場では、臨床所見の注意深い観察と様々な研究報告を統合し、障害像の本質に近づく努力をすることが問題解決への糸口になると思われる。そこで、本発表を参考にして頂き、同様な症例に対して治療の一助になればと思い発表させて頂く。

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205674643840
  • NII Article ID
    130007007504
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2010.0.77.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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