当院での高次脳集団プログラムの取り組み

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  • 中江 基満
    滋賀県立成人病センターリハビリテーション科

抄録

【目的】高次脳機能障害のある方が、社会生活の基礎を身につけるための訓練として、集団プログラムを行っている病院、施設がいくつかある。大半はOT、STが中心となって活動されているケースが多い。その中で当院では、多職種で連携して集団プログラムを行っている。今回、当院での集団プログラムの取り組み、PTとしての関わりについて報告する。〈BR〉 【方法】集団プログラムの共通目的として、_丸1_社会生活を送るための基礎となる対人関係技術を身につける_丸2_集団で目標を達成するために周りの様子も見て自分の役割や行動が行えるようにする_丸3_周りの人の様子やその時の自分自身から学び次に活かせるようにするの3点を挙げている。対象者は後天性脳損傷による高次脳機能障害者である方、日常生活がほぼ自立している方、全15回参加可能な方。また、当院リハ科で参加が望ましいと考えられた方であって、本プログラムの趣旨に同意される方とする。スタッフは医師(リハ医)、臨床心理士、PT、OT、ST、保健師で構成する。開催方法は、週1回の全15回でPT、ST、OTセクションは各80分を5回ずつ交代で実施。CPセクションは90分を全15回実施。事前にケースカンファを行い、情報共有する。当院で作成した評価を用いて、各セクション終了毎に多職種で検討する。PTの内容は、ペアストレッチ、バランス運動、大縄跳び、馬跳び、二人三脚、人文字、体力測定、卓球、風船バレー、ドッヂボール等を実施した。〈BR〉 【説明と同意】参加者には事前に個人情報の取り扱いについて、学術研究会発表の利用に関しても説明し、同意を得ている。〈BR〉 【結果】今回実施した評価では各症例における共通した変化は認められなかったが、訓練場面や日常生活において対人関係に変化が見られた。体力測定の結果、全症例に身体持久力の低下がみられた。運動継続に至ったのは4/14名程度であった。〈BR〉 【考察】林らは、全身運動と対人関係を取り入れたプログラムの有効性を示唆している1)。今回、PTセクション途中からも訓練場面での対人交流の向上が見られたことは、集団での全身運動の有効性を示唆していると考える。さらに、橋本は、「身体的耐久力が養われて初めて、高次脳機能を鍛える前提が整う」2)と、体力の重要性を唱えている。体力測定の平均値との比較、他者を観察すること、身体活動やスポーツを通しての他者との比較で、自身の身体への気づきとなり、その場では体力が必要だという動機づけにはなった。しかし、運動継続に至ったケースはわずかであり、運動継続の動機づけに関しては今後検討が必要である。集団プログラムにおいて、全身運動によるコミュニケーションの賦活、運動の継続によっても、社会生活の基礎を身につける一助になるのではと考える。また、身体的特徴と精神的特徴の共有によって、より有効な集団プログラムが提供できるのではと考える。有効性についても今後検討していきたいと考える。〈BR〉 【理学療法学研究としての意義】 身体機能障害が軽度の高次脳機能障害者に対するリハビリテーションにおいて、大半がOT、STが中心となって集団プログラムに関わっている。もちろん、各高次脳機能障害に対する机上課題、作業課題も大切であるが、その基盤にある体力(身体的耐久力)に対しても、意識付けをし、アプローチしていくことも大切であると考える。橋本らは「身体的充実によって、人間は精神的耐久力を持続させ、自分自身を抑制することができるようになる。我慢が出来るようになって初めて意欲・発動性が生まれ、高次脳機能の良い循環を生み出す」3)と唱えている。そのため、社会生活の基礎を身につける目的で行う集団プログラムにおいてもPTが関わる事は意義があると考える。〈BR〉 【文献】1)林 陽子:前頭葉損傷者に対する社会適応に向けたリハビリテーションの検討.認知リハビリテーション.2007.15-20. 2)橋本圭司:高次脳機能を鍛える.全日本病院出版会.2008. 3)橋本圭司,上久保毅:高次脳機能障害リハビリテーション入門.診断と治療社.2009.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205674921984
  • NII論文ID
    130007007644
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2011.0.60.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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